君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
理佳は嬉しそうに微笑む。
その後は、車椅子に移動してアイツの車椅子を後ろから押しながら
エレベーターで、屋上まで向かって、重たい扉を開いた。
夜風が徐々に、秋の気配を匂わせてた。
「寒くないか?」
理佳の変わった車椅子をロックして、
アイツの傍に座ると、声をかける。
「大丈夫。
風を感じるのが久しぶりだから、
凄く楽しい」
理佳はそう言って笑った。
そうか……ずっと空調管理のされた病院内だから、
自然の風を感じただけで、理佳には珍しいんだ。
そんなことを思いながら、
俺は退院することになったことを、どのタイミングで告げようか
そればかり考えてた。
20時。
夜空に大きな音ともに、大輪の花が咲き始める。
そんな花火を眺めながら、
理佳は何故か泣いてた。
多分……初めてなのかもしれない。
そんな風に自己解釈した。
最期、金色のスターマインがゆっくりと柳を描いた後
理佳は、ただ黙って一人拍手を送ってた。
「気に行った?」
その問いかけに、理佳は頷く。
「だったらさ、来年も再来年も、ここで見たらいいだろう。
ここの花火だけじゃない。
親父に許可貰って、俺がお前の知らない世界、沢山教えてやるよ。
だから……楽しみにしてろ。
後……明日の午前中に、俺……退院決まった。
でも……学校が終わったら、顔出すから」
俺がそう告げた途端、
理佳は、柔らかく微笑んで小さく告げた。
「退院おめでとう」って。
その後は、沈黙が広がって
俺たちは黙り込んだままお互いに病室のベッドへと戻った。
退院当日、いつものように朝からリハビリだけこなして、
病室に戻ってきた時には、理佳の姿はそのままなくて、
仕事を都合つけて迎えに来てくれた、母さんが退院手続きをとってくれた後
看護師さんに花束を貰って退院した。
理佳には出逢うことのないままに。