君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】




「理佳、バカかよ。
 ピアノ弾くにも、限度があるだろ。

 なんで倒れるまで演奏すんだよ」



相変わらずの憎まれ口を叩く、
託実くんの話し方がすでに懐かしかった。



「ごめん」




声にならない声で、マスク越しに謝罪する。



「うっせぇ。
 謝って欲しいわけじゃないからな。

 せっかく学校終わって、制服のまま駆けつけてやったのに
 昨日は面会謝絶。

 来るって言っただろうが。

 だったら大人しくしてろよ」



そうやって本音をぶつけてくれる託実くん。





アナタと離れるのが怖かったから。



そんな風に、
本音を伝えたら貴方はどうするの?



だけどそこまで会話が続けられるはずもなく、
不整脈からの発作が、かなり体に負担をかけていたことは明白で
ICUでの面会も長く続けることは出来なかった。




それでも託実くんは、ICUに居る間も毎日のように夕方、
必ず姿を見せてくれた。



ICUから自分のベッドにもう一度、
移動することが出来たのは4日後。





一般病棟に戻ることが出来た私の周りには、
託実くん、宮向井君、そして堂崎さんが姿を見せた。




「はい」



そんな風に紙袋を手渡す堂崎さん。


戸惑いながら受け取って、その中を開くと
中から出て来たのは、可愛らしいシュシュ。



「病院でも退屈なりにおしゃれしなきゃ。
 家にあった布で、サクサクっと作ってきたハンドメイド・シュシュ。

 重宝するわよ」


そう言って美加さんはくるりと、私に後ろ姿を見せると
美加さんの髪にも、シュシュが結びついていた。



「ライバルにこんなにも早く、あっちに行かれたら
 味気ないじゃない。

 とっととなおして、私に憎まれてよ」


どんな言い方だろうって思うけど、
多分、これは……わかりにくい、美加さんなりの励まし方なのかも知れないと思えた。



「んじゃ、私今から塾だから行くわ。
 託実も、宮向井も理佳さん、病み上がりなんだから長居しないようにね」


そう言って、美加さんは部屋を出ていく。


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