君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
改めて見つめる、託実くんと宮向井君の制服姿。
菫色の燕尾服。
中のシャツが、宮向井君と託実くんは違ってた。
「おっ、理佳。
制服姿に見とれたか?
今は中等部だから、ボウタイだけど来年高等部に進学したら
ここはネクタイになるからな。
ちゃんとその姿も、理佳の目に焼き付けろよ」
「二人とも素敵だね」
そう言って返答すると、託実は不機嫌そうに「二人とも?」と聞き返す。
そんな託実を可愛いなーなんて思いながら、
私は「託実がかっこいいよ」っと小さく告げた。
喜ぶ託実に、呆れかえる宮向井君。
託実くんが退院して、久しぶりに笑いが木霊する病室。
「病み上がりで悪いんだけど、理佳さん。
これ、聴いて貰っていいかな?」
そう言って、宮向井君が自分のプレーヤーにささってるイヤホンを
私の方へと向けた。
受け取って耳にはめると、
ギターの音色で、切ないメロディーが浮かび上がってくる。
「雨をイメージしながら、
演奏してるんだけど、まだうまく固まらなくて」
イヤホンから聴こえてくるのは、
ギターの演奏と、鼻歌で紡がれるメロディー。
聴いている間に、自分の中でイメージが固まってくる。
溢れだすイメージを忘れないように、
私は五線譜を取り出して、線でおたまじゃくしを作り上げる。
全てではないけど、何となくのイメージを固めた後、
イヤホンを外すと、二人はポカンとして私の方を見つめた。
「おいおいっ、病み上がりが何、無理してんだよ。
いきなり、物凄い勢いで書き始めるから何事かと思うだろ」
そうやって私を心配してくれる託実に対して、宮向井君の反応は真逆。
「凄い。
おたまじゃくしが読めないのが残念だよ。
多分、今のフレーズを聞いて理佳さんの中に溢れだした世界なんだよね」
「綺麗なメロディーラインだったよ。
でも……綺麗過ぎても、飽きちゃうと思うんだ。
だから長く愛されるために、あえて刺激物。起爆剤を曲の中に仕込むの。
ピアノの前に行っていいなら、演奏するんだけど……」
何気なく伝えた言葉に対して、託実くんがおでこに、中指でデコピン。