君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「15分ほどしか時間はとれないけど、
大樹も同席でいいかい?」
「俺は構いません。
では、すぐにお茶の支度をしてきますのでデューティーは、
いつものサロンに移動をお願いします」
一礼をしてその場を後にすると、
サロンと併設している給湯室で、紅茶を準備する。
寮生活をしていた時は、寮内で行われていた朝のコミュニケーション行事。
中等部になり、自宅からの通学が可能になった後は、
このサロンが朝の、HBWのコミュニケーションの一環を担う空間になっていた。
それぞれのジュニアが、デューティーやグランデューティーのお茶を準備して、
それぞれの場所へと移動していく。
俺も流石に慣れた、
お茶をティーカップに注いでデューティーたちの待つテーブルへと置いた。
「託実とこうやって過ごすのは久しぶりだね」
「はい。
部活を退部した今、デューティーにお茶を入れるのはこの場所でしか機会が得られなくなりました」
「そうだね。
でも陸上部をやめても、託実が俺のジュニアであることには変わりない。
体育祭はどうするんだ?」
「今回は体育祭も棄権する予定です。
普通に日常生活は許可されても、まだスポーツまでは許可が出てないんで
当面はリハビリに専念します」
実際、走ることは出来ないんだから間違ったことはいってない。
「そう。
それで託実は、今も医者になる気はあるの?」
「ですね……。
陸上辞めたら、俺……勉強以外、取り柄ない気がしてきました。
成績は幸い落としてないから、両親にも医学部狙ってもいいって言われて」
「何かわからないことろがあったら、すぐに訪ねておいで」
「有難うごさいます」
お辞儀をした頃には、朝のSHR前の予鈴が校舎いっぱいに鳴り響く。
「ごちそうさま、託実」
デューティーはそう言うと、大樹先輩を連れてサロンを後にした。
そのまま洗い物を済ませて、俺は教室まで移動する。
教室前には、すでに隆雪が顔を覗かせていた。