君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「託実、遅いぞ」
「悪い、デューティーとティータイムしてた。
部活なくなったら、この時間しか会えなくてさ」
「まぁな、少しは一般生徒の気持ちわかったか?
デューティは近いようで遠い、遠いようで近い存在なんだ」
「まぁ、何となくここに来てその意味がわかった気がしたよ。
それより託実、次の日曜、顔貸してくんない?
この際だから、もう一度言う。
俺は音楽で食べれるようになりたい。
けど、一人でバンドは出来ない。
託実と一緒にやりたいって思ってんだ。
託実は一緒にやってくれるって言った。
けどさ、理佳ちゃんが居たからこそのOKだったと思うんだ。
そうじゃなくて、心から託実が音楽をやりたいって思って貰えたら嬉しい。
それをさ、俺……この間、昂燿校でバンドやってるSHADEの怜さんに相談したんだ。
今、俺も時々面倒見て貰ってるからさ。
それで、練習を見においでってさ次の日曜、スタジオに招待してくれたんだ」
はっきり言って、今の俺にはSHADEがどっちを向いているのかわかんねぇ。
マジで、俺は走ることしか興味がなかったのだと思い知らされる。
けど……俺が、理佳の世界を広げようとしたみたいに、
隆雪が今の俺の世界を広げようとしてくれてるなら、
それに乗っかってみるのかもいいかもしれない。
そんな風にも思えた。
日曜までは何時ものと同じように過ごして、
その日を迎えた。
駅で待ち合わせてして向かったスタジオ。
隆雪は、いつものようにギターを背中に担いで手慣れた様子で階段を降りていく。
「おはようございます。
怜さん、琢也さん、EIJIさん、今日は有難うございます」
真っ先に挨拶をする隆雪に、俺も慌ててお辞儀した。
スタジオにいるのは、後三人か……。
「隆雪、そっちが託実くんかな?」
「はいっ。裕先輩の……」
裕兄さん……また、その偉大な名前かよ。
悧羅は、裕真兄さんと一綺兄さん。
昂燿は、裕兄さん……そうだよな。