君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「んじゃ、学院祭用の一曲目行ってみようか」
怜さんが言うと、
今度は紀天とか紹介された人がスティックを打ち鳴らして演奏を始める。
粗削りだけど、音の重たい大砲のようになドラム。
そのドラムを支えるように、
どっしりとリズムをキープさせるベース。
その二つのリズム隊に、絡み合う様に奏でられる二つのギターの音色。
怜さんの隣、めちゃくちゃ真剣に演奏する隆雪。
時折、怜さんとアイコンタクトをしながら、
一つの音楽の世界を生み出していく。
そんな音に絡み合うのは、高音の綺麗な声。
真っ直ぐな純粋な声は、
聞くものの心を優しく満たしていく。
そんな音楽。
「伊吹、二頁の第八小節。
声が喉に落ちてる。
息をあてる位置を確認して、喉に落とさず、観客側に広げろ」
「はいっ」
ただ聞いてた俺とは違って、
壁際で同じように聞いていた琢也さんは、
ボーカルの子に指示していく。
怜さんも隆雪に何かを支持し、
羚は、今も黙々と一人でさらう様にフレーズを爪弾く。
EIJIさんも、紀天さんの場所にいって
何かを指導しているみたいだった。
此処に居る存在が、それぞれに【熱い何か】を持ってる。
そんな風に感じることが出来た日曜日。
その日俺は、理佳が手伝うからでもなく、
隆雪に誘われたからでもなく、俺自身が純粋に、音楽をやってみたいと思えた。