君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「理佳さん、こんにちは。
今日の調子はどう?」
ノックをして声が聞こえたのは、隆雪くん。
「あっ、今託実じゃなくてがっかりしたでしょ。
理佳ちゃん、表情にでやすいよねー。
アイツは今、リハビリ。
もう少しで来るよ。
SHR終わった途端に教室すぐに出ていったからさ、
此処に来るのは間違いなしだよ」
そんな風に声をかけながら、
隆雪くんはベッドサイドの私の元に近づいてきた。
そして鞄の中から取り出して、
広げるのは、歌詞らしい文章とプレーヤー。
「作ってきたの?」
「うん。
まだ思う様に作れなくて、似たようなフレーズが沢山出てくるんだけど
昨日、徹夜で何とかここまでまとめたんだ」
隆雪くんはそう言うと、
イヤホンを用意して私に差し出す。
手渡されたイヤホンを両耳にさして、ゆっくりと目を閉じると
ギターの音色と、ハミングで主旋律を口ずさむ隆雪君の声が聴こえた。
「綺麗なメロディーラインだね。
えっと、思うことは沢山あるんだけど
今日はピアノの傍に行く許可が貰えてないの。
朝、少し熱出しちゃって。
このデーターって、私のPCに入れて貰うこと出来る?
いれて貰えたら、その音を聞いて思う様にアレンジは出来ると思う」
そうやって答えると、隆雪くんは嬉しそうに笑って
「PC触ってもいい?」
っと声をかけて、頷いたのを確認すると手慣れた感じで起動。
データーを移動した。
データーを移動している間に、
リハビリが終わって、病室まであがって来ていた託実は
病室前の扉横で、少し不機嫌そうに立ってた。
「あっ、託実。
悪い、理佳ちゃん借りてた。
理佳ちゃん、じゃ俺、今からギターだから。
託実、理佳ちゃんとゆっくり。
理佳ちゃん、次の日曜は俺が託実借りるから宜しく」
そんなことを言いながら、慌ただしく病室から駆け出していく隆雪くん。
「入ってくれば?託実」
視線を病室の外に向けて招き入れる。
託実が来てくれて嬉しいのに、
素直に喜ぶことが出来ない。
私の声に、無言のまま病室に入ってきて
ベッドサイドに座ると、
鞄の中から教科書を取り出して、
静かに私の傍で、読み始める託実。