君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
何処までも素直じゃない二人。
「託実……怒ってる?」
「別に。
ただ面白くないだけ」
面白くないだけって……
言い方変えれば、怒ってると思うんだけど。
「隆雪くんから新曲のデーター貰ってただけ。
次のアレンジ用にね。
託実の前で宣言したでしょ。
隆雪くんの夢の手伝いをするって。
託実の方は?
楽器、決まったの?」
「まだ。
次の日曜に隆雪があわせたい奴が居るんだってさ」
「そう。
だったら、託実の最初の一歩はその後だね。
その時までに、私もちゃんとアレンジ上手く出来るように勉強するから」
それ以上、会話らしい会話も続けられず
私は五線譜を取り出して、隆雪君から預かったデーターを聞きながら
譜面に起こす作業をこなし、託実もまた勉強を続けてた。
そんな沈黙の後、再び病室の扉をノックしたのは一綺さん。
「こんばんは。
託実来てたんだ、どうしたの?
喧嘩でもした?」
「何でもねぇって、一綺兄さん。
それより、今日はなんで?」
「裕真が来る予定だったけど、
実習の後が長引いて、代理。
理佳ちゃん、調子はどう?
裕先輩が心配して、裕真に連絡してきてたみたい」
「裕先生が……。
大丈夫です。今日は少し熱が出てしまって大人しくしてますけど、
ピアノ触りたくてウズウズしてます。
隆雪君が、バンドで演奏する曲のイメージを持ってきてくれて
アレンジ頼まれてるんです」
託実と二人だけで、張りつめてた部屋に
緩和剤のように入り込んできた、一綺さんの存在にちょっと救われた。
託実の不機嫌の原因をどうする術もない私には
一綺さんの存在は救世主で、一綺さんと話を弾ませてるとまた
託実の視線が突き刺さってくる。