君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


「えっと……裕先生。
 でもバンド用のアレンジってどうやってやればいいのか、わかんなくて」  

「そうだねー。
 理佳ちゃんが関わってきた世界とは少し勝手が違うかもしれないね。

 バンド用のオリジナル曲も、最初は原曲作りから始まるよね。
 その原曲は、隆雪が考えてきてるのかな?

 最初の段階は、その原曲を堅固なものに調整していくことなんじゃないかな。
 歌入れも含めて、全体的なイメージを固められるように。

 曲の展開だったり、曲の長さの調整、前奏が何小節。サビを頭に持ってくるかどうか。
 何曲も回数が重なってくると、同じ展開パターンになりやすいから気をつけながら
 土台を決める作業。

 多分、理佳ちゃんに課せられる部分は、その作業じゃないかな」




ざっくりと、編曲・アレンジを依頼されて
頷いてたけど、思いつくままに演奏する即興的要素とは異なるのだと
そこで初めて認識する私。




「難しいかな?」

「難しくないとは言えないんじゃないかな?
 でも……私は、理佳ちゃんには出来る力が備わってると信じてるよ」



そう言って、裕先生は画面の向こう側で笑いかけてくれた。



「原曲の編曲が終わったら、次は各楽器パートの伴奏を考えるようになるかな。

 その辺りもいろいろと理佳ちゃんには未知の世界だから苦労する部分じゃないかな。
 各楽器のことを勉強する必要もあるよね。

 残念ながら、私もそっち方面は詳しくないから
 今度、宝珠(ほうじゅ)に連絡を取っておくよ」




裕先生の口から、聞きなれない名前が出てくる。



「宝珠?」

「そう、華京院宝珠(かきょういん ほうじゅ)。
 私の父方の従兄妹で、バンドやってる子たちと深く関わりのある活動をしてる。

 隆雪たちにとっても、力になってくれると思うから」




裕先生はそう言って、真っ直ぐに私を捉える。



「理佳ちゃん……新しい風が吹きそうだね。

 11月の悧羅学院の学院祭には、OBとして帰国して参加することになってる。
 その時に逢えるのを楽しみにしてるよ。

 おやすみなさい。理佳ちゃん」

「おやすみなさい。裕先生……」





そうやって言葉を返すと、画面の向こうがブラック画面になり
いつものノートパソコンの画面へと戻った。






私に吹きはじめた新しい風。




今は、そんな希望の風を感じながら
不安と、期待感が入り混じってた。




ゆっくりと変わっていこう。

自分のペースで、一歩ずつ。


そんな風に思いながら、その夜……
眠れないながらも、眠りに入ろうと努力した。



ちゃんと眠って、またピアノのを触っていいように
宗成先生からお許しが欲しいから。




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