君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
18時頃になって、私服に着替えた親父が病室に訪れた。
「託実、遅くなってすまない。
理佳ちゃん、託実を有難う」
そう言って俺を連れ出すように親父が動き出す。
黙々と作業を続ける理佳に声だけかけて
俺は親父と共に病室を後にした。
病院の関係者入口に近いところに停められている親父の車。
促されるままに車に乗り込むと、
車の中から親父は何処かに電話をかけ始めた。
「さっ、託実の相棒探しに出掛けるか?
母さんには連絡済み。ついでに、隆雪君も捕まえておいたぞ」
そんなことを言いながら、車を走らせ始めた。
辿り着いた場所はこの間、隆雪と顔を出したスタジオと同じ建物。
だけどこの間は地下に降りた俺だが、
今日は親父と一緒に正面玄関を上がっていく。
「あらっ、兄さん。
それに託実くんも久しぶりね」
そうやって姿を迎えたのは、
親父の妹、旺希(おうき)叔母さん。
華京院家に伊舎堂の家から嫁いだ人。
「旺希、悪いが託実のベースを探してやってくれないか」
「えぇ、宜しくてよ。
兄さまは、どうされて?」
「俺は最上階のサロンで演奏でも聴きながら待ってるよ」
「なら終わり次第、声をかけますわ」
そう言うと俺だけを、
この人の元に置いて親父はすぐにエレベーターの方に歩いていった。
親父……俺、この旺希叔母さん苦手なの知ってるだろ?
「さっ、託実。
陸上一筋だった貴方が珍しいわね?
この間、地下のスタジオに宮向井君と来てたわね。
羚の演奏でも聴いたの?」
真っ直ぐに見据えるように伝えられた叔母さんの言葉は、
真実そのもので。
「あの羚って何者?
俺より年下なのに、なんであんなに演奏上手いわけ?」
「怜君の影響もあるんでしょうね」
「怜君?」
「えぇ、SHADEの佐喜嶋怜くん。
羚は、小さい時から怜君と一緒に音楽教室にもスタジオにも来てたのよ」
大きな建物の中には、地下のスタジオから始まって
楽譜フロアー、ピアノ、エレクトーン、DTM(デスクトップミュージック)コーナーなど
いろんなジャンルにわけて、最上階まで音楽関係のものばかりを販売していた。
「さて、此処のフロアーにあるのが全部ベースよ。
託実、気になるものはある?」