君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
六階フロアーにエレベーターから出た途端、
空間いっぱいに沢山並べられているのが全てべース?
けど……叔母さん、ベースってどうやって選ぶんだよ。
俺、完全な初心者。
まだ楽器も触ったことないって。
「中山、私の甥っ子がベースを始めるみたいなの。
ベース選ぶの手伝ってあげて。
彼が中山。うちの店のベース教室の講師も任せてる一人よ」
叔母さんはそう言って、頼もしい助っ人と引き合わせてくれた。
「初めまして。中山と申します。
まずは、初心者の人にわかりやすく、
この冊子を見ながら説明させて頂きます」
中山さんが手渡した冊子には、いろんな形をしたベースが書かれていた。
「まず一頁目。
こちらのベースタイプが、もっともスタンダードなタイプで
そうですね、フェンダー社のプレシジョンベースやジャズベースが代表的な形です。
殆どの人が、エレキベースと言うとこの形を思い浮かべるではないでしょうか?
二頁目のベース。
こちらは、アイバニーズやワーウィックなど伝統的な形に捕らわれない
モダンなタイプのエレキベースになります。
ハードウェアやピックアップなどに新しい技術を取り入れられていて
ボディも小さめで、ネックも薄くて握りやすいものが多いのが特徴です」
中山さんの説明は次々と冊子を見ながら進められていく。
他にも、弦の長さが通常860mmのところ、820mm前後のショートスケールと言うもの。
後は、四弦のイメージが強いベースの弦だけど、5本か6本の弦を持つ
多弦ベースって言われてるもの。
単に、ベースって言ってもいろんな種類があった。
「さて、託実くん。
じゃあ、実際のフロアーに行って気になるベースを教えてくれるかな?」
そう言って俺を案内する、中山さん。
「託実、選んでるか?」
そんな俺の傍に、いつの間にか来てた隆雪が顔を出す。
確か親父が声かけたんだったか……。
隆雪だけだと思って振り返った後ろには、
この間あったばかりの、怜さんと、羚が姿を見せてた。
「佐喜嶋くんと遊佐くんのお知り合いでしたか?」
中山さんはそう言って、二人にも話しかける。
「託実、遊佐って言うのは羚のことだよ」
隆雪はそっと耳元で教えてくれた。
「あぁそうだ。
遊佐君、良かったら託実くんに君のベースを見せて貰えないかな?
羚のベースは、アイバニーズ製 AFR204なんだ」
中山さんが頼むと、彼は自分の相棒をゆっくりとケースから差し出した。
「羚、あそこのアンプに繋いで少し聴かせてくれないか?」