君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
だから私は……歩き続けることが出来てる。
タイムリミットが過ぎた命。
何時まで生きられるかなんて、
最初から誰もわからない。
だから……そんな誰にも決められない言葉に
振り回されて自分を殺すのもやめたいって思えた。
朝の休憩を挟んで、迎えに来てくれたかおりさんと、お遊戯室に向かうと
かおりさんは冴香先生と教室が出来るようにセットしてくれた。
「理佳ちゃん、今日も楽しんでね。
何かあったらすぐに呼んで」
そう言って、お遊戯室で倒れた後からずっと手渡されてる
救急コールブザーの紐を首から下げられる。
お遊戯室にはナースコールのボタンがないから、
それに変わるものとして、かおりさんたちが準備してくれたアイテム。
かおりさんがお遊戯室を出ていったのを確認して、
車椅子からピアノの椅子へとゆっくりと移動すると、今日も軽い運指からウォーミングアップ。
一通り鍵盤の上に指を走らせた後、
隆雪君が依頼されている編曲を少し、実際のピアノで演奏してみる。
五線譜の上に泳がせてる、おたまじゃくしは、あくまで頭の中のイメージ。
そのイメージが、実際に演奏できるかどうかは私のスキル次第だから……。
自分への挑戦の様に、その譜面と向き合って修正個所にチェックをいれると
裕先生に感想を貰うために、持ってきたノーパソを通して録音した。
録音した後、壁時計に目を向けると20分が経過しようとしてた。
後10分で、冴香先生のレッスン。
慌てて、先生から出された課題曲の練習を始める。
10時半。
いつものように始まった、冴香先生のピアノレッスン。
二台のピアノのためのソナタ。
「こんにちは。理佳ちゃん、今日もレッスン始めましょうか?
まずは先生と、一緒に弾いてみましょう。
どれくらいの速度にしようかしら?
理佳ちゃん、基本速度を決めて貰えるかしら」
冴香先生の声が私の元に届いて、
私はA4の用紙に32頁ぎっしりと綴られている楽譜を譜面台めくりやすいようにセットして
冒頭の16小節くらいまでを演奏してみた。
「理佳ちゃん、久しぶりのレッスンだから、後少しテンポをスローに」
指示されるままに、速度を落とすと、
私が演奏するリズムに向こう側で手を叩きながらテンポを刻む。
「はいっ、OK。理佳ちゃん、今先生が叩いてるテンポを意識して……。
さぁ、行くわよ。1・2・3、ハイっ」
冴香先生の声で第一音を弾き始める。
でも相手の顔を見えない今の練習方法では、
合わせづらくて、ちょっとグタグタな演奏になってしまう。
「さっ、理佳ちゃん。
相手がいることをもっと意識して。
はい、最初からもう一度。もう少し左手を軽快に」
30分と言う練習時間はあまりにも短すぎて、
思う様に合わせることが出来ないまま時間だけが無情にも過ぎていった。