君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



「理佳ちゃん、今月の末に一度日本に帰国するのよ。
 その時に、理佳ちゃんに時間を見つけて会いに行くわ。

 それまでは、なかなか思う練習は出来ないかもしれないけど
 理佳ちゃんには一緒に演奏するパートナーがいることを今回は忘れないで」

「はいっ。
 今度はもう少しうまく出来るように、練習しておきます。
 宗成先生、練習時間増やしてくれないかなー」


思わず零れる本音。



練習量が絶対的に足りてない。


人って欲張り……。
次から次へと、やりたいこと、望みが増えていく現実。



「あらあらっ、理佳ちゃん。
 無理して、体調を崩しては元も子もないのよ。

 この夏休み、先生の甥っ子も心臓の手術したのよ。

 甥は、理佳ちゃんみたいに重い心臓の病気ではなかったけど、
 姉にとっては大変な試練の時間だったみたいね。

 先生にも大切な一人息子がいる。
 今は小学校三年生だけど、咲夜(しょうや)が……って考えたら、先生どうなるかわからなかった。

 だから理佳ちゃん、ご両親と上手くいってないのも先生知ってるけど
 出来るなら、理佳ちゃんのピアノを何時か、先生は理佳ちゃんの御両親に聴いてほしいって思うの。

 出来れば、この曲を……先生と一緒に……ね」



そう言って冴香先生は、行かなきゃっと画面の向こう側のボタンを押したらしく
私のノーパソからは先生の顔はブラック画面になってしまった。




「理佳ちゃん、レッスンは終わったかしら?」



11時になって、放心状態の残ってる私に、かおりさんが迎えに現れる。



「あらっ、理佳ちゃんどうしたの?」

「今冴香先生が……この楽譜の曲を、先生と一緒に演奏して私の親に聴かせましょうって」

「まぁ、素敵ね。
 理佳ちゃんが冴香先生と一緒に演奏するときは、私もお邪魔したいわ」


会話を進めながらも、私が病室に帰る準備は着々と進められていて
そのまま車椅子に移動した私は、病室へと連れ戻された。

ベッドに入った後も、前に貰った冴香先生の演奏データーを必死に聴きこんでは
楽譜に印をつけていく。



気が付けば昼食時間。



昼食の後も、ずっと演奏を聴きこんでは
指先は空中を動き続ける。

ここのトリルをもう少し、指をしっかり早く動かさなきゃ、滑りやすいなー。


なんて独り言ばかりが口をついて出る。



14時までの時間はあっという間で、
私は来客が来たことすら気が付けずに、イヤホンから聴こえ続ける音に指を無心に動かし続けてた。




ようやく耳から届く演奏が終わって、
めくりつづけた楽譜を最初に揃えて、もう一度再生させようとした時
ふと、私の肩を触れる存在に驚いて、顔を上げる。

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