君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
4.突然の入院 -託実-
一綺兄さんと裕真兄さんによって
附属病院まで車で送り届けられた俺は、
そのまま関係者専用入口から、
救急処置室へと連れていかれる。
処置室の前には白衣姿の親父が、
もう一人の医者と待機してる。
そして慌てて駆け込んで来る母さん。
膝の痛みは相変わらずで、
ただでさえ、ストレスが強い現状で
両親に揃って駆けつけられると、精神的に参る。
此処まで連れてきてくれた兄さんたちは、
二人とも成果って奴を見出してる存在で、
俺は……今回の怪我で、そのチャンスすら棒に振った。
情けなすぎて、自身を苛立たせることしか出来ない。
「一綺くん、裕真くん、悪かったね。
託実が世話をかけたみたいで」
「叔父さん、プライベートでは従兄弟同士でも
私、学院内では託実のグラン。
悧羅卒業生の叔父様には、その意味わかるはずだけど」
「あぁ、十分に理解してる。
だからこそ、この後も面倒掛けるな。一綺くん」
「ホント、一君有難うね。
後で、姉さんにも連絡しておかなきゃ」
当事者の俺を放ったまま、
処置室の前で、井戸端会議始めるなよ。
「君が託実君だね。
宗成先生と薫子先生の息子さん。
僕が君の主治医を受持つ、松川です。
じゃあ、処置室入ろうか」
親父の隣に居た先生が、自己紹介をして
病院に到着してすぐに座らされた車椅子を後ろから押した。
「あっ、松川先生。
勝手なことしてすいません。
託実の膝、テーピングだけしてます。
後お願いします」
俺が処置室に入るのがわかった裕真兄さんは、
そう言って、先にグラウンドでやったテーピングの件だけ伝えた。
「託実君、膝の異常を感じたのは今日から?」
診察用のデスクの前で、向かい合わせに座ったまま
松川先生は俺の左膝を固定していたテーピングをはずして
両手で何かを確認するように触れながら質問する。
膝の痛みを感じるようになったのは、
一週間ちょい前になるわけで、
その間、練習を優先して親父たちにも相談しなかったのは
俺自身で……。
一応、相談しておけば良かったって言う
俺自身のやましさも重なって、すぐに現状を告げられず
かといって今日からだって嘘を話すのも気が引けて俺は黙り込む。
シーンと静まり返った処置室の中に、
ドアを開けてゆっくりと入室してくるのは親父。
「託実、膝痛かったんだろう?
父さんも託実が言い出すのを待つんじゃなくて、
先に話せば良かったな」
そう言いながら、俺の隣に立ったまま
俺の肩をトンと叩いた。
隠さずに話せってことか……。