君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
ロータリーには、車椅子ごと私が移動できるボックスタイプの車が停車していて
私は後ろ側から、用意されていた坂を上って車内へと固定された。
遅れて車内に乗りこんできた三人。
女性の合図を受けて、車は動き始める。
15分くらい車に揺られて到着したのは大きなビルの前。
同じように後ろ側から車椅子ごと降りると、
その人は建物の中へと入っていった。
一斉にその女の人にお辞儀を始める従業員。
「ここは彼女の家が経営するお店なんです」
そう言って、車椅子を押しながらよっくりと教えてくれた。
「紺野さま、伊集院さま、ご無沙汰しております。
初めまして、満永さま。
どうぞ、本日はごゆるりと」
そう言って、店長と名札に書いてあったその人は私にも頭を下げた。
エレベーターで上に移動して通された場所は、
ホワイトボードと、ピアノが2台。
そしていろんな機材が詰まった部屋。
「さて、まずは裕兄様の課題からね。
高臣さま、紫音さま」
「その前に宝珠、ご挨拶をされては?」
「えぇ、そうね。
華京院宝珠(かきょういん ほうじゅ)ですわ。
今は悧羅学院内で、DTVT楽団を率いています。
こちらが、私のフィアンセ。
紺野高臣さま。そして、私たちの学院のOBであり私の師、伊集院紫音さまですわ」
そう言って自己紹介を始められた後は、
ホワイトボードや機材を使っての私の勉強時間。
PCに入っているソフトを触りながら、隆雪君から預かってた原曲は、姿を変えていく。
私が一人で編曲していた頃では、何処か物足りなかった場所もクリアされていく。
ピアノで編曲している時だけだと考えることもなかった、
ドラムの入ったイメージ、ベースの入ったイメージ、ギターの入ったイメージ。
足りなかった部分を補完しながら、勉強の時間は増えていった。
「さて、ここまで説明したのが基本編かしら?
でも貴方が任された編曲までは、これで堅固なものになったのではなくて?
この後は、演奏者のセンスが問題。
バンド用の各パートの伴奏作りに関するコツと、フレーズ集、ワンポイントアドバイスみたいなものを
まとめてあるから、また目を通すといいわ」
そう言って、手提げのファイルいっぱいに資料のつまったクリアケースを私の前に置いた。
「後は、少し楽しみましょうか?
初めての外出なのでしょ?宗成伯父様に聞いたもの。
お医者様がいないと、なかなか外出させて貰えないわよね。
さっき、ずっと練習していたのはモーツァルトの2台のピアノのためのソナタだったわよね」
思わぬ言葉に頷くと、
彼女はすぐに用意されていた二台のピアノの蓋を開けてフェルトを折りたたんだ。