君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



ふいに首を回しながら視線をドアの方に向けた時、
何時からそこに居たのか、SHADEの怜さんとガラス越しに視線があった。


彼に向かってお辞儀をすると暫くすると、ガチャリと重たいドアが開いて
怜さんが姿を見せた。



「こんばんは。
 託実くん、練習は順調?」

「まだまだ足りないところは沢山あると思います。
 隆雪と……」

アイツの隣には立つには……


こう続けようとした言葉も、理佳の名前の部分は声にすることすらできずに
心の中で続ける。


「隆雪と?」

「あぁ、隆雪にバンド誘われてるのに、
 まだまだ出来る技量には程遠いなって話で」


そんな風に、サラリと本心を隠して会話を続ける。


「だけど中山先生は託実くんの上達は早いって聴いたけど?」


そう続けられた言葉に、中山先生に対して
『何勝手に話してんだよ』と言う見当違いな怒りが湧き上がる。



「今日、昂燿校の生徒総会メンバーが悧羅校に来てるんだ。
 もうすぐ学院祭だろ。

 その関係で俺も、昂燿を出ることが出来たから
 此処に顔を出してる」



そう言った怜さん。


でもそれってどういう意味だよ。
学院祭と、俺のベースは関係ないだろう。

そんなことを思いつつ、
何を考えているのかわからない怜さんと向き合う。


「託実くん、今、俺の前で演奏してくれるかな?」



そう言うと、怜さんは手にしていた自分の相棒をテーブルに置いて
そのハードケースから、緋色の綺麗なギターを取り出した。



「さて、何でもいいよ。
 託実くんの心のままに音を出して」


怜さんはそう言うと、俺が演奏を始めるのをじっと傍で待つ。

演奏って言っても、そうやって言えるほどのものはまだ出来なくて
いつも通りの練習をする羽目になる。


まずは開放弦からのピッキング。

今までの練習の成果を復讐するように、
地道な基礎練習を続ける俺に、
怜さんは自分のギターの音色を重ねてきた。
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