君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
10月の中旬になった頃、
ゆっくりと勉強しながら、冴香先生や裕先生、宝珠さんたちに相談しながら
作り上げた、隆雪君原曲でアレンジした三曲の編曲が何とか形になった。
例の如く、作り上げた途端に体調を崩して
寝込んでしまった私は、その楽譜を裕真さんたちに託して休養する羽目になる。
その一週間後、今度は一綺さんがUSBの中にデーターを入れて
病室を訪ねてきた。
まだ熱がすっきりとひかない怠さの残る体。
だけど持ってきてもらったデーターを聴きたくて、
ノーパソを起動させた。
そこには、私が預けた楽譜を元に
各、楽器ごとの伴奏が広がっていた。
画面に映る、託実のバンドメンバーの姿。
久しぶりに見た託実が、
私が初めてみるベースを肩からぶらさげた姿で
隆雪とふざけあってた、そんな映像がおさめられてた。
託実の姿を見ることが出来たのが、
改めてこんなにも嬉しく思うんだと……実感した。
10月下旬のある日、宗成先生が私服姿で私を訪ねてきた。
「理佳ちゃん、少し診察させてくれるかい?」
そう言って、真剣な表情になっていつもの日課を終えると
今度はベッドサイドの折りたたんでいた車椅子を開いた。
「今日は調子よさそうだね。
理佳ちゃん、今日は先生久しぶりの休みなんだ。
一緒にデートしようか」
そう言いながら、ゆっくりと手を差し伸べて
私が車椅子に移動しやすいように、介助してくれる。
「何処行くんですか?屋上とか?」
「違う違う。
休みの日くらい、病院から離れたいなー。
だからデートは外。
外に出掛けるなら、女の子は着替えないといけないか……。
外出用の着替えはある?」
「この間着たのがあるから」
「そう。だったら先生は外に居るから着替え終わったら声をかけて」
そう言うと宗成先生は病室から出て扉を閉めた。
ゆっくりと車椅子から立ち上がって、クローゼットからこの間も着た洋服に袖を通すと
もう一度、車椅子に座ってゆっくりとドアの方へと車輪を回した。
「着替え終わったよ」
その言葉と同時にドアが開いて、
私はもう一度病院の外に出ることが出来た。
今回も……なんかあった時に対処できるお医者様付。
宗成先生の運転する車で向かった場所は、
この間と同じ場所。
だけど建物の中に入ってから向かった先が、
前回はエレベーターで上にあがったのに対して、
今回は地下へと向かう。
エレベーターが止まると、先生はポケットからカードみたいなものを出して翳すと
ドアがゆっくりと開いた。