君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】

7.学院祭準備期間-託実-


思いがけず、親父によって理佳と再会することになった
旺希叔母さんのスタジオ。

スタジオで理佳の姿を見つけた時、
アイツは夏休みにあった時よりも、弱っちく見えてたまらなかった。

多分……俺のことでいっぱいいっぱいだった生活が
理佳に負担掛けたのかも知んない。


だからこそ……親父が、
この場所に連れてきてくれたようにも思えて。


俺が理佳の病室に行けない以上、
アイツが俺に逢う手段は、誰かの手を借りることしかないから。



抱きしめたい衝動を隠すように、
俺は二人の名を呼んで近づく。


「親父、理佳……」

「ほらよ、託実。
 隆雪君、疲れてるだろ。
 
 差し入れだ」
 

理佳よりも先に親父が手にしていた紙袋を
手渡した。

ずっしりと重さのある袋の中身は、
作業をしながらでも、食事がとれる食べ物。


おにぎりや、サンドウィッチ、惣菜パンなどが
ぎっしりと詰まってた。


そのどれもが親父の生家、
伊舎堂が経営するホテルの料理長に作らせたものばかりだと言うことが
すぐにわかった。


今も……俯いて、不安そうに俺を見てる理佳。


そんな理佳をちょっとでも笑わせたくて、
アイツが良く知る、ガキの俺が顔を出す。


紙袋からサンドウィッチを掴み取ると、
理佳の前でベリベリっと包装していたナイロンを破って
パクパクっと一気に胃袋の中に収めていく。


夏休み、俺がそうやって食べながら理佳のものを摘まんだ時も
アイツは笑ってた。

そんなことを思いだして取った行動に誘引されたのか、
理佳の顔から笑みが零れ落ちた。





……久しぶりに見た、アイツの笑顔……。



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