君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
理佳に何か先に取るように促すと、
アイツは躊躇い(ためらい)ながらサンドウィッチを一切れ掴み取った。
野菜が挟まれた、シンプルな玉子焼きサンド。
アイツが選んだものと同じものを
狙って俺も掴み取ると、示し合わせたかのように「いただきます」と声を出して
一斉に頬張った時間。
その瞬間、チビチビと口に玉子焼きサンドを運びながら
アイツは嬉しそうに微笑んでた。
SHADEもメンバーも練習を終えたのか、
スタジオから出てきて、紙袋を捉える。
コントロールルームに居た宝珠姉さんたちも合流して、
暫くは和やかな食事時間。
親父の差し入れを持って、何処かの部屋に行く怜さん。
その後、再びそれぞれの持ち場に戻って練習を再開していく。
同じ場所で再び立ち尽くす俺たちと、車椅子の上の理佳。
「演奏、聴かせて貰ってた。
凄いね……私が完成させた編曲。
あんな風に仕上げてくれて。
託実も凄い、ベース初めてまだそんな時間経ってないのに
宣言通り、私の編曲した曲一緒に演奏してくれてる」
突然、理佳がそんなことを言いだした。
別に凄くなんてねぇよ。
今も俺が、演奏の足を引っ張ってるのはわかってる。
もっと簡単な演奏にしたら、
確かにもっとまとまりやすくなるかもしんないけど、
それでもやれるとこまで、やりたいんだ。
俺の限界を越えて、
魅せることが出来たら……
多分、当日それは理佳にとっての生きる力になってくれると思うから。
毎日、必死になって諦めきれずにしがみついて
生きようとするアイツ。
そんなアイツの生き方に、夏休み……俺は力を貰って
この時間に繋がってる。
だから……アイツに貰った俺が、
アイツの力を増幅させて、もう一度アイツの中に戻してやるんだ。
アイツが少しでも元気で、長く、笑っていられるように。
そんな願掛けも織り込んだ、俺の挑戦は……失敗なんて許されない。
そして妥協も許せない。
だからお前の言葉に甘えるなんて、俺自身が許せない。
「まだまだ。
俺がバンドの足引っ張ってるのはわかってる。
けど……絶対、学院祭では成功させてやっから、
理佳には特等席、運営委員特権で用意しといてやる。
学院祭の日は、裕兄さんも帰国するから
親父、外出許可出せよな」
理佳に言葉を返しながら、親父が同席している今がチャンスだと
学院祭の話を持ち出した。
学院祭は裕兄さんも帰国する。
理事会メンバーの、伊集院紫音も帰国してる。
理佳が外出できる要素は揃ってるはずなんだ。
だから……親父にダメ押し。