君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「先生……私も行ってみたい……。
悧羅って、モモも海神だけど通ってるの。
託実の学校、見てみたいから……」
何も言わないっと思ってたアイツが、
自分の言葉で、学院祭に来たいと話し始める。
アイツの妹が通う学校。
俺が通う学校が見てみたいから……っと。
「わかった……。
だったら理佳ちゃんは、このまま学院祭の当日まで
体調を安定させること。
託実、お前も理佳ちゃんにストレスを与えるな。
彼女にとってのストレスは、何時命取りとなるかわからない。
毎日、理佳ちゃんを安心させてやれ。
バカ息子」
親父は理佳に外出の為の条件を付けると、
俺にもアイツを安定させろとか、もっともらしいことを指示して
背中を掌で、バシっと叩きやがる。
痛いんだよ、くそ親父。
「理佳ちゃん、二時間したら迎えに来る。
先生は上で妹と話してる。
体調が崩れたら、このボタンをすぐに押しなさい」
親父がそう言って、何かを理佳に手渡すと
理佳はそれを首からぶら下げた。
その後の二時間、SHADEり練習と入れ替わりに
隆雪が名付けた、Ansyalと呼ばれる俺たちのバンドがガラスの向こう側へと入っていく。
何度も何度も演奏を切り返しては、
演奏向上のための話し合いや指示を貰って
学院祭当日に、お披露目できるように仕上げていく。
少し走り気味になる、昂燿の廣瀬さんのドラム。
パワフルなんだけど、それを支えるベースの存在のプレッシャーがキツイ。
リズム隊の俺たち二人が崩れると、
せっかくすげぇいいように仕上がってる、怜さんのギターと隆雪のギターが
光らない。
そして……ボーカルをする、瑠璃垣って奴。
一度、メロディーに乗せて歌わせれば
めちゃくちゃ上手いのに、それ以外の性格は最悪でコミュニケーション取りづらいのなんのって。
そんな噛みあいそうにない奴らが、
こうやってまとまって、一つのものを形にしようと思えるのは
ムードメーカーの怜さんと、隆雪自身の本質。
練習を終えてスタジオを出た頃には、とっくに約束の二時間は過ぎていて
理佳は親父と共に病院へと戻ったみたいだった。
「お疲れ様です」
挨拶を済ませて、スタジオの建物を飛び出すと
ベースを担ぎながら、アイツの電話番号を呼び出す。