君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
ふいに親父の持つ医療用PHSがベルを鳴らす。
親父はすぐに電話に出ると、
少しだけ会話をして気まずそうに俺の方を見た。
「託実、悪いな。
父さん、病棟患者が急変して行かなきゃならない」
申し訳なさそうに告げる親父。
親父の仕事は俺なりに、理解してるつもり。
それに今の情けない俺自身を
家族に晒し続ける気にもならなくて「行けよ。早く」っと
短く告げて送り出した。
俯いたまま親父の足音も遠のいていく。
それと入れ替わりに、近づいてくる足音。
「託実……良くないよ。
今のは……」
俺に話しかける声は裕真兄さん。
裕真兄さんは何も言わずに、
俺の肩に手を添えた。
それを合図に、
ゆっくりと車椅子が動き出して
処置室から移動していく。
「託実……結果は後からついてくるものだよ。
だから……結果の二文字。
魔物にとりつかれてはいけないんだよ」
ゆっくりと移動していく病院内。
俺の後ろから、
ゆっくりと告げられた言葉。
「……魔物……って怖いな……」
何とか答えられた言葉は、
それだけだった。
その後、自販機に携帯を翳して飲み物を調達すると
裕真兄さんは俺に手渡す。
手渡されるままに、緑茶の入ったペットボトルを開けて
一口・二口と口の中に含ますと、
一気に口の中、喉が潤っていくのがわかった。
喉が渇いていたことにすら、
気が付けてなかったんだな。
それだけいっぱいいっぱいで、テンパってたんだと思ったら
なんか無性におかしくなった。
「託実……」
「有難う。
少し落ち着いたし、今の俺が見えたから。
検査行くよ。
けど……何されんだろ。
俺、まともに風邪すらひいたことないからさ」
再び動き出した車椅子は、
エレベーターに乗って三階まで移動していく。
その後、俺は松川先生のところまで連れていかれて
何種類かの検査を受けた。