君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「ちょっと待ってろ」
そう言って車椅子から離れると、その場所で絵画を管理している生徒に声をかけて
何かを手にして託実が戻ってきた。
託実の手にあったのは、ポストカード。
ここにある絵を映した、ポストカードを託実から受け取ってゆっくりとめくっていくと、
その中にモモの絵も混ざってた。
「有難う、託実」
そっと胸元で抱きしめるポストカード。
再び動き出して、ハーモニーホールに到着すると
託実は、運営委員会の仕事に戻るために持ち場へと帰っていった。
私は裕先生と一緒に、ハーモニーホールの用意された
VIP ROOMっぽいボックス席に連れていかれる。
ステージまでは少し距離があるけど、それで映し出される映像は目の前に見えるのと同じで……。
「本当は近くで見せてあげたかったんだけど、
理佳ちゃんも演奏の準備があるから、今回はここ。
後で、宝珠たちもこの部屋に来るようになってる。
そこにあるピアノも触って練習してもかまわないから。
この部屋の音は外部には漏れない。
この部屋の外の音も、スピーカーを通してでしか入ってこないから。、
適度に休憩しながら、芸能祭も楽しむといいよ」
少しの間、休憩しながら舞台を見つめていたけど、
自分の練習もやろうと思って、ピアノの方に移動する。
裕先生と一緒に演奏するのは、
バッヘルベルのカノン。
私一人で演奏するのは、
ショパンの夜想曲を即興アレンジでメドレーにすること。
そして最後の一曲は、
急きょ、皆で演奏することになったオリジナル曲。
練習を始めると、部屋に集まってくれた皆と打ち合わせをして
その後は、ステージの方へと車椅子で移動していく。
演奏用にも用意して貰ってたドレスに着替えて、
託実に車椅子を押して貰いながら、ステージに向かう。
車椅子からゆっくりとピアノの椅子の傍で立ち上がって、静かにお辞儀をした後
椅子に座って、高さを調節。
深呼吸をして、そっと鍵盤の上に両手を置いた。
ショパンの夜想曲メドレーをオリジナル即興で一気に届けた後、
ゆっくりと合流してくる裕先生。
裕先生と一緒に演奏するのはカノン。
最後にステージの前にあるオーケストラの専用スペースから、
指揮者だけがステージに上がってくる。
それと同時に、もう一台のピアノの前には伊集院先生。
指揮者の合図でゆっくりと私だけが演奏する。その音色に絡み合う様に、裕先生のヴァイオリンと伊集院先生のピアノが重なって
そのハーモニーが次第に、他の弦楽器にも広がっていく。