君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
Tシャツとパンツ。
その上に検査着を着せられて、
ドーナツの穴みたいなところに頭だけ残して、
円柱形の機械の中に寝たまま入っていく。
検査前に、耳栓を貰ったけど『ぐわん ぐわん』と
煩い音が苦痛を感じさせる。
耳栓なんて意味ねぇジャンって思う気持ちと、
耳栓してなかったら、どんだけ煩いんだよっと
愚痴ばかりを心で思いながら、30分ほどの時間を過ぎた。
それがMRI検査の初体験。
その後も、膝になんか機械を付けられて
データーを取られたり、膝を曲げられて何かを調べられてた。
俺にはそれで何が分かるのかなんて、
さっぱりだった。
検査の後は救急の処置室ではなくて、
もう外来が終わって、患者さんが居なくなってる
整形外科の外来診察室の一室へと連れられた。
そこに急変対応を終えて入ってきた親父と交代して、
裕真兄さんは病院を後にした。
松川先生によって、画像とか検査結果のデーターを見せられながら
告げられた診断名は、左膝前十字靭帯損傷なんて言う、
舌を噛みそうな病名だった。
その後も、
松川先生から引き続き治療方針が説明される。
難しいことはわかんないけど、膝を安定させるための重要なところが
断裂して入院して手術が必要なことが告げられた。
松川先生に対して、
「お願いします」と頭を下げる親父。
病名が診断されて、入院と手術が必要になった今
また俺の中に、自分を責める魔物がすみついていく。
外来の処置室を後にすると、
親父に車椅子を押されながら入院することになる部屋へと連れられた。
「託実、今から託実が入院する部屋には、
お父さんの患者さんだが、可愛い女の子が居るぞ」
そんな風に会話を切りだしてくるものの、
俺にはそんなものどうでもよくて、
ただ……全国大会に出ることが出来なくなったという現実だけが
深く俺の心に突き刺さった。
「託実、此処だよ」
親父に言われて顔を上げた先には、
満永理佳と書かれた名前と、
亀城託実と書かれたプレートが並んでかけられてた。
「理佳ちゃん、今まで一人だったところ悪いんだけど
今日から先生とこの息子と一緒でいいかい?
今、中学三年生なんだ」
そんなことを言いながら、入室した部屋は
少し広めの部屋に、ベッドが二台。
ベッドサイドには、
キャビネットと簡単な棚が用意されてあった。
理佳と親父に呼ばれた女は、
自分のベッドに座ったまま、何も言葉を返さず
一瞬俺を見てから、すぐに手元の紙に視線を戻した。
両耳にイヤホンをしていることから、
多分、何か聴いてるんだろうことだけは感じて取れた。