君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



初めて触れた理佳は、
お世辞にも柔らかいなんて言えたもんじゃない。

力いっぱい抱きしめたら、今にも折れてしまいそうなほど
細くて、痩せて、手の先も凄く冷たくて……。

だけど……近づけた体に、アイツの呼吸を感じる。
その呼吸が……今も理佳が生きているのだと俺に伝えてくれた。



「手、冷てぇ。
 ほらっ、あっためろや」

理佳の手を、こすり合わせて体温をあげた俺の手で包み込む。


「託実……暖かい」

「そうだろ、寒くなったら俺があっためてやる。
 だから……ちゃんと、俺のところに戻って来い。
 理佳の居場所は、俺の傍だろ。今は」


何時もは照れくさくて言えないセリフも、
今日だけはサラサラと口から出てきて……。


「うん。有難う」

「よしっ、んじゃとりあえず飯」


理佳から離れて、アイツの食器を手に取って
一口ずつスプーンに掬って、アイツの前へ。


最初は戸惑っていたアイツも、
俺が持つスプーンから、掬ったおかゆを一口食べる。

アイツの胃の中におさまっていくであろう、おかゆを見送って
もう一掬い、スプーンに掬って、再びアイツの口元へ。

だけど理佳は、その日はそれ以上食べようとはしなかった。
食事の後は、また眠りについてしまう理佳。




そんな状態を何日も繰り返しながら、
季節は12月へとめぐった。




「託実、理佳さんは?」


教室で俺の姿を見つけた隆雪は、理佳のことを聞く。


「まだベッドから動くのは許可されてないみたい。
 ただ少しずつ、晩飯のおかゆは食べてくれるようになった」

そんな風に報告する俺。



「理佳ちゃんがあんな風だと、今回は託実、LIVE誘っても
 無理だよな。怜さんが、クリスマスLIVE手伝ってくれないか?って」



12月……。
そっかぁー、もうそんな時期なのか……。

通りで街中がクリスマスソングなんだっと今更に自覚した行事。

そして12月24日のクリスマスイヴは、隆雪の誕生日でもあった。

俺にとっての12月は
クリスマスってより、隆雪の誕生日って認識が強かったけど……
今年はいつもと違うクリスマスになるのかも知んない。

そんな風にも思えた。



「悪い、怜さんと隆雪の誘いなら、参加出来たら良かったんだけど
 今回は俺、理佳と初めて過ごすクリスマスだから。

 アイツが元気で外出許可貰える状況だったら、出演したかったんだけど
 今はちょっと無理そうだから。

 隆雪だけ行ってきてくれよ。
 昂燿の紀天と伊吹って奴も来るんだろ?怜さんの誘いなら」


そうやって会話を切り返すと、隆雪は首を横に振った。
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