君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
病室には戻ったものの、
ベッドから動く許可が貰えない時間だけがその後も過ぎた。
ベッドの中で出来るのは、
少しでも長く、座っていられるように訓練すること。
そしてその場で指を動かしながら、
冴香先生と演奏する予定の曲の楽譜を練習すること。
少しでも可能性があるなら、
私は諦めずに前を向きたいって……
今は心から思えたから。
治療と検査と練習と……そんな毎日が続いたけど、
12月の中旬に差し掛かる頃、
30分だけ、お遊戯室でもう一度ピアノを触ってもいいと
宗成先生は許可を出してくれた。
1日30分間だけ、実際の鍵盤に触れて練習できる
2台のピアノのためのソナタ。
その30分間の練習時間が、託実がお見舞いに来てくれた時間と重なった時、
私が勇気を出す瞬間が現れた。
私がピアノを弾いている間、託実は音を出さずにベースを演奏する真似をしてる。
私に遠慮して、音を出さないのを知ってる。
「なぁ、理佳。
もうすぐ何の日か知ってる?」
一曲通して弾き終えた瞬間を狙って問われた言葉に「えっと……年越し」っと
私はバカすぎる回答をした。
何時もはクリスマスなんて存在しない我が家。
今年は……ちゃんとクリスマスがあるのに、
即答する答えは、いつもの日常。
「年越しの前、クリスマスだろ。
今なんて、街中クリスマスだらけだぞ。
病院のエントランスにも、デカいクリスマスツリー飾ってるんだぞ」
託実はそう言い放った後、慌てて自分の口元を抑えた。
多分……今の私が、クリスマスツリーを見れないことを
知っているから?
でも託実……大丈夫。
クリスマスツリーは、かおりさんに携帯の写真で見せて貰ったから。
だけど……クリスマスは今までの私には関係なかったの。
今年の心配は……託実が一緒に過ごしてくれるかどうかだから。
「託実……ごめん。
うちの家、クリスマスはないの。
誕生日もクリスマスも、我が家にはもうないの。
私の病院代で沢山お金使わせるから。
小学校の時に、誕生日もクリスマスもいらないって
お父さんとお母さんに言ったから」
違う……。
そんなこと言いたいわけじゃないのに、
素直じゃない私は、すぐにそんなことをいって突き放そうとする。
「でも今年は俺が祝うって言うんだから、
両親は関係ないだろ。
俺が自分が楽しむために、
理佳を巻き込んでクリスマスやりたいだけだ。
でもさ、25日の夜は、隆雪と怜さんのLIVEに一緒に出して貰えることになったんだ。
だから理佳と過ごすのは、イヴの夜でいいか?
親父に話しとおして、小さなクリスマスケーキ用意する。
食べれそうなら食べればいいし、許可出なかったら一緒に飾っててもいいじゃん」