君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
1枚の紙にびっしりと、面会の為の条件と面会のやり方が記載されていた。
ふいに時計が、15時を過ぎようとした時
重々しい、集中治療室の扉が内側から開いて、二人の少し疲れた顔をした夫婦が待合室へと姿を見せる。
「貴方……リカは……」
そう言いながら、今にも泣き崩れそうな女の人。
耳に届いた、リカの名を今の俺は……理佳へと脳内変換してしまう。
「あの……。
俺、亀城託実と言います。
先ほど、リカって言う名前が耳に届いて……俺の彼女も、
理佳って言って、今、集中治療室にいるんです。
もしかして……ご両親ですか?」
自分でもびっくりするような行動に出てしまった。
目の前の夫妻はお互いの顔を確認しあうような素振りになって、
旦那さんらしき人は、奥さんを待合室へのソファーへと座らせた。
「君が託実くんだったんだね。
宗成先生の息子さん。
私が理佳の父親、そしてこっちが理佳の母親です。
っと言っても、親失格かも知れませんが……」
そう言いながら、理佳のお父さんは集中治療室の扉の方へと視線を向けた。
「託実くんのことは、理佳の日記で知ってたんですよ。
俺も家内も、情けない親でね。
最初の頃は、毎日のように理佳の病室に顔を出してた。
だけど理佳が治療をうけてる姿を見るのが辛くてね……。
どれだけ苦しんで治療を受けていても、
理佳に変わってやることは出来ない。
見ているだけの時間に耐えられなくなって、
私は……理佳の治療費を稼ぐためだと都合のいい言い訳を自分にして
病院に行くことが遠のいていった。
家内の方はその後も、暫くは病院に通い続けてたんだけどね
理佳の前で、暗い顔ばかりするようになって
そんな顔しか出来ないなら、もう来るなって娘に言われてしまってね。
今では娘が起きてる時間には、お見舞いに行けなくなってしまった。
眠ってる理佳を眺めて、理佳が書いている日記を盗み見て洗濯物を入れ替えて帰るだけ。
そんな風になってしまった……。
だけど今年の夏頃かな。
君の名前が日記の中に登場するようになって、このベッドで眠っている子なんだなとは思ってはいたけど
こうやって逢えるとは思わなかった。
退院した後も、理佳を支えてやってくれて有難う」
そう言って、理佳のお父さんは俺に頭を下げた。