君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
別に……頭を下げられるようなことしてるわけじゃない。
理佳のお母さんは、鞄から取り出した大学ノートを取り出す。
薄い大学ノートが、セロテープで繋げられて分厚くなっていた。
「理佳が毎日綴ってる闘病日記なの」
そう言いながら理佳のお母さんは、俺の前にノートを差し出した。
分厚いノートを受け取って、パラパラとめくる。
1日1頁。
そんな割合で綴られてる、理佳の日記。
パラパラとめくっていくと、
俺の名前が記載された頁で手が止まる。
*
7月21日
昨日までの吐き気が嘘みたいにおさまってて
宗成先生からも、30分だけピアノを演奏させて貰えた。
ラクリモーサの調べが心地よかった。
18歳の命のリミットを越えた私。
罪悪感を抱えながら、あとどれくらい生きられるんだろう。
午前中は楽しかったのに午後からは最悪。
ずっと一人だった病室に同室者が来るらしい。
もう勘弁してほしい。
8月3日
バカみたい。
なんか醜い自分が嫌。
*
最初はそんな風に毛嫌いされてた俺も
その後の日記には【託実】と名前が出てくるようになって
それは今月まで繋がっていた。
*
11月27日
11月3日~5日まで託実とモモの通う学校で
学院祭に参加できた。
車椅子じゃなかったら、もっともっと楽しめたのかな。
だけどそれは多分、私の我儘。
素敵な時間を過ごせたのは、いいことなんだよ。
だけどその後は、今日まで集中治療室。
ようやく帰ってこれた自分の部屋。
私の肝臓肥大始めちゃった……。
心不全が致命的になりませんように。
12月8日
今日は託実に言えなかった。
冴香先生にクリスマスイヴの日、
一緒に演奏しようって言われたこと。
今度来てくれた時には、ちゃんと伝えよう。
託実、ピアノリサイタル誘っても退屈じゃないかな?
12月12日
今日、勇気を総動員して伝えられたよ。
託実、凄く驚いてたけど
内心、断られるんじゃないかってビクビクしてた。
心臓、バクバクして不整脈起こしたらどうしようって凄く心配になった。
託実が誘ってくれた、25日のクリスマスのLIVE。
行ければいいなー。
私が行けても、行けなくても託実にはステージで輝いてほしい。
ベースを演奏してた託実は、かっこよかったから。
*
理佳の日記は、12月23日を最後に空白のまま。