君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「よく頑張ったね。理佳ちゃん。
理佳ちゃんの体の中には、前にも説明した通り
人工補助心臓が体の中に埋め込まれてる。
ずっと理佳ちゃんが嫌がってたのは先生も知ってる。
だけど今回の人工補助心臓は、
こんなバッテリーとコントローラーを鞄に入れて持ち歩くことが出来れば
外出することだって可能な代物だよ。
ちゃんと医療も進歩してるんだ。
先生は理佳ちゃんに、もっともっといろんな世界を知ってほしい。
そして託実の……息子の傍で、笑ってて欲しいんだ。
理佳ちゃんと出逢って、生意気なだけだった託実が、
少しずつ変わり始めてる。
後で、遠山さんと左近さんに理佳ちゃんを迎えに行って貰えるように
連絡しておくよ」
そう言いながら、宗成先生はまた忙しそうに集中治療室を後にした。
先生の言葉は、ちゃんと私のことを考えてくれてる。
そんな風に少しだけ思えた。
午後から集中治療室に、かおりさんと左近さんが迎えに来てくれて
私はベットに寝かされたまま、エレベーターに乗って病室へと戻った。
やっぱりその時も、私の傍には両親の顔があった。
ベッドをいつもの場所に固定すると、
私は窓から外を見つめる。
葉が落ちた枝。
前に見た時は、そんな景色だけだったのに
少しずつ力強く、生命力に満ちた木々。
梅の花、もうすぐ咲きそうだね。
梅の花が咲いたら、
今度は桜。
桜の花が咲いて4月になったら、
最初の日は私の19歳の誕生日。
「ねぇ、お父さん……お母さん。
私、成人式迎えられるかな?」
ふとそんなことを呟いてた。
少しずつ諦めていたことが現実になっていくと、
人って本当に貪欲になってく。