君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


だけど何言ったって、嬉しかったんだ……。
アイツが初めて、
俺の為に必死になって作ってくれたプレゼントだから。

何時もはあまり食べないチョコも、
アイツがプレゼントしてくれただけで、最後まで食べきろうと思える。

ぐちゃぐちゃに、心の中が整理できないままにチョコを食べ終えて
キッチンでコーヒーを飲み干すと、俺はまた自分の部屋へと戻った。

そして黒いマフラーの隅っこには、
角角した字体でTAKUMIと刺繍された俺の名前。

その名前を指先で触れて、
アイツを思いながら、首にマフラーをグルグルと巻き付けた。


大丈夫。
会えなくても気持ちは繋がってる。

繋がってるなら……ちゃんとアイツは、
また俺をテリトリーに入れてくれる日も来る日だから。


だから今は、俺も出来ることをやる。


エスカレーター式の悧羅学院とはいえ、進級試験がないわけじゃない俺は
高等部に進級するための、試験勉強を必死にこなし、
アイツに逢えない時間を過ごし続けた。


3月14日、ホワイトデー。
その日は、無事に高等部へ進級が決まった俺の中等部卒業式。

今日、着納めとなる……ボウタイ。
来月からは、高等部の為、ボウタイは取り除かれて、ネクタイへと変わる制服。


卒業式を終えて、クラスの奴らと別れると
そのまま理佳の病院へと駆けつけた。


相変わらず理佳は、会おうとしてくれなかったけど
俺はその日だけは、どうしても一緒に過ごしたかったんだ。



俺にとっては、中学の卒業の日で……ホワイトデー。
俺がアイツの為に用意したのは、レッスンバッグと呼ばれるもの。


アイツがもう一度ピアノを演奏できるようになったら、
楽譜とかノーパソを持ち運びしやすいように、
姫龍伯母さんに教えて貰いながら簡単な鞄を作った。

縫い目がガタガタなのは愛嬌だ・愛嬌。

アイツの、よれよれのチョコ文字といい勝負だけどな。

食べ物の制限が沢山あるアイツには、
そう言うものよりも、ストレス負担がないものの方がいいと思ったから。

それを紙袋に入れて、病室を訪ねてた。




「理佳居るのか?」

ドアをノックして声をかける。

「託実……ダメ、ドアは開けないで」

すぐにいつもと同じ決まり文句。

「もう耳タコ。
 ドアは開けないから、そこで話聞いて。

 俺、今日……中学卒業してきた。
 来月からは、高校生。

 ちゃんと……医者になるから……。
 親父みたいに、理佳助けられるようになるから」


そう言いながら、耳を澄まして理佳の声を待つ。

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