君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
何やってんだろう。
ドアなんて、簡単に横に引けば開くのに
俺はこうやってでしか、アイツと会話できない。
アイツと俺を遮るドアにもたれかかりながら、
声をかけ続ける俺。
外から見たら凄く滑稽だと思う。
だけど……今はそれしか、俺に選べる術はないから。
理佳の返事を待っても、アイツの言葉は戻ってこなかった。
諦めて……更に言葉を続けることにした。
「理佳……今日、ホワイトデー。
ドアのところに、ホワイトデーのプレゼント置いとくから
後で見て」
そう言いながら、プレゼントを詰め込んできた持ち手の紐を
ドアの持ち手に結び付けようとした時、理佳の言葉が続いた。
「待って……。
託実、ドア……開けていいよ」
そうやって伝えられた、天岩戸が開いた瞬間。
プレゼントを手にして、
久しぶりに理佳の眠るベッドへと近づいた。
「よっ、これ。
ホワイトテー」
アイツのベッドテーブルには、今も五線譜が散らばっていて
シャーペンが一つ転がってた。
久しぶりに対面したアイツは、
11月のあの時みたいに顔が黄色くて……、
今回はパンパンに体が張っているような印象があった。
「びっくりしたでしょ……。
肝臓の調子が悪くて、顔とか黄色くなってるし
腎臓もうまく動いてくれなくて、体中が浮腫んでるの。
だから……会いたくなかった……。
会いたかったけど……会いたくなかったの……」
理佳はそうやって言葉を続けた。
そんな理佳の近くに行って、
俺は久しぶりにアイツを布団越しに抱きしめた。
前より弱っちくなったように感じる華奢な体。
「どんな理佳だって、理佳だろ。
俺には必要だから」
アイツが凄く弱気になってる気がして、
溜まらなくなって伝えた。
「有難う」
小さな言葉で紡がれた五文字。