君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「海……」
「海?」
「そう……海に行ってみたい……。
でも、それは叶わないのを知ってるから」
そんな風に言葉を続けて、理佳は口を噤【つぐ】んだ。
その後、左近さんが理佳を迎えに来て
アイツは何かの治療の為に、車椅子で病室を後にした。
連れられていく後ろ姿を見送って、
俺は病室を後にした。
海に行きたい。
そう言ったアイツの為に俺が出来ることはないかと、
必死に考えを張り巡らす。
だけど簡単に外出できないアイツは、
やっぱりアイツの主治医にもなる親父に相談することしか出来なくて、
俺はその夜から、親父の説得を始めた。
親父と散々話し合って、ようやくまとまった
誕生日プレゼント。
それは海が見える、
伊舎堂の別荘へとアイツと一緒に出掛けること。
出掛けるのはアイツの体調がいい日で、
一泊二日のみ。
一緒に行くのは、アイツの両親と……理佳。
そして俺の家族三人の六人。
伊舎堂の別荘の近くには、同じく神前経由の他の総合病院も近くにあるため
何かあっても連携が取りやすいと言う親父の判断だった。
春休みに入った俺は、
まだそんなプレゼント内容をアイツに伝えることのないまま
病室に顔を出したり、隆雪とバンドの練習をしたりしながら
中三最後の二週間を楽しんだ。
明日から……四月。
俺は高校生となり、アイツは……19歳の誕生日を迎える。
そんな節目の夜を迎えた。