君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
15.GW -託実-
四月、俺は悧羅学院の高等部へと
隆雪や美加たちと一緒に入学した。
高等部になると、中等部に比べて授業時間も長くなって
なかなか理佳のところにゆっくりと顔を出せる環境ではなくなったけど、
それでも行ける範囲で、アイツの病室を訪ねる。
アイツの誕生日に約束した「海に行こう」は、今もまだ果たされないまま
あの日から一ヶ月が過ぎようとしていた。
ベッドの上がアイツの居場所。
それは今も変わらなくて、行くたびにアイツはテーブルに広げた五線譜に何かを書き込みながら
時折、テーブルを指で叩いたり、空を指で押さえてピアノを演奏する仕草を見せた。
「託実、理佳ちゃんだけどな。
昨日、理佳ちゃんの御両親と話をして
来週のGWの後半くらいに、設定しようと思うが
託実の都合はどうだ?」
朝ご飯のひと時、親父がそう言って話を切り出した。
「GW、3日はいつものLIVEハウスで演奏だけど
4日と5日は空いてる。
4日か5日で調整できるなら、有り難い。
無理だったら、隆雪と怜さんに頼み込んで俺は休ませても貰うけど」
「それには及ばない。
隆雪君に無理を言うもんじゃないよ。
3日は、託実はしっかりと演奏しておいで。
学生生活の楽しい時間は、今だけだからね。
理佳ちゃんの方は、4日と5日に出来るように調整してみるよ」
親父はそう言うと、いつもの様に病院へと出勤。
俺もまた、慌てて学院へと通学準備を終えて向かった。