君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
翌日の4日。
親父たちと一緒に、理佳と理佳の両親を連れて
伊舎堂の別荘へと旅行する朝が訪れる。
鞄の中に着替えの服を詰め込んで、
相棒のベースも担いで、玄関へと歩いていくとすでに準備が整った母さんが
俺を手招きした。
「託実、今お父さんから連絡があって
理佳ちゃん、旅行に行けそうですって。
車は疲れたら、理佳ちゃんに眠って貰えるように
大きいのを借りてきたわ」
そう言うと車に荷物を詰め込んだ。
「託実は助手席」
母さんに言われるままに車に乗り込むと、
お母さんは、運転席に乗り込んで車のエンジンをかけた。
家から動き出した車は病院で、理佳たち4人を乗せて
そのまま伊舎堂の別荘を目指した。
都会の景色から少しずつ、緑が広がっていく。
助手席から時折、後ろを振り返ると
肩から鞄をぶら下げた理佳は、嬉しそうに車窓から眺める景色を楽しんでるみたいだった。
理佳の隣には親父が居て、その後ろには理佳の両親が座ってる。
途中高速道路のサービスで、理佳のお父さんが運手を代わり
母さんが助手席。
俺は後ろの席へと移動することが出来て、
久しぶりに理佳とのゆっくりした時間を得ることが出来た。
車の中で、嬉しそうに微笑む理佳を見ながら
俺たちは他愛のない会話をする。
昨日の俺のLIVEの話、学校の話。
そんな話を聴きながら、
理佳は嬉しそうに笑い返してくれた。
「託実、ベースは?」
「相棒は持ってきてる。
アンプとかはないけどな」
「うん。
それでもいい。今練習してる曲、後で聴かせて。
託実の演奏聴くの久しぶりだから」
そう言いながら理佳は、また笑った。
病院を出て1時間ほど車を走らせた頃、
車窓から、真っ青な海が広がっていく。
そんな海を見ながら、また嬉しそうにはしゃぐ理佳に
親父が「理佳ちゃん、少し落ち着こう。体に負担がかかるから」そんな風に
窘める【たしなめる】ほど……。
親父に窘められて、両肩をキュっと持ち上げると
怒られちゃったって言う様に、また笑った。
何もかもが今のアイツにとっては新鮮で、
楽しいのだと伝わった。
別荘についた後、アイツは補助心臓のバッテリーの充電を兼ねて
別荘のベッドで休息タイム。
楽しそうにはしゃいでいても、体力の低下している今のアイツには
こんな僅かな移動も、かなり疲れるみたいで、すぐに眠りの中へと入っていった。
2時間ほど仮眠して、ゆっくりとベッドの上で体を起こした理佳は、
その窓から、海の方をじっと眺めてた。