君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「起きたのか?」
「うん」
「海行きたいんだろ。
今、親父呼んでくるからもう少しおとなしく休んでろ」
俺はそう言って、親父の元へと向かった。
親父たちは、理佳の両親と二人で
夜ご飯の準備をしてた。
「親父、理佳が起きたよ。
とりあえず顔出してやってよ。
海行きたそうだから」
そう言うと、親父はすぐに作業を中断して綺麗に手を洗った後
診察鞄を手に持って、理佳の部屋へと向かった。
診察の間は、俺は入れるはずもなくて
閉ざされた扉の前で、時間を持て余す。
ここまで来ても、アイツが悪化してたら
とんぼ返りか、すぐ近くの病院に搬送が決定。
こんなに近くにアイツが見たかった海があるのに……。
何とも言えない緊張感が俺の中に広がっていく。
暫くして、ドアが開くと
そこには車椅子に移動した理佳が親父に車椅子を押されながら
部屋から顔を覗かせた。
「託実、許可出たの。
だけど30分だけだって」
30分。
親父が決めたタイムリミット。
俺たちは、理佳の車椅子を押しながら
別荘から近くの海岸まで全員で移動していく。
海に入ることはさせられないけど、
アイツの車椅子を、砂浜の上でゆっくりと移動させていく。
波打ち際が見えるその場所に、車椅子をとめてロックをかけると
俺はアイツの隣、砂浜の上に座った。
「託実……波の音って、子守唄みたいだね。
一定のリズムで、凄く心地よい」
そんな感想を口にしながら、
じっと海を見つめ続ける理佳。
そんな理佳を見ながら、俺は凄く怖くなった。
なんか……理佳がこのまま、
俺の手が届かない何処かへ行ってしまいそうで……。
そんな押しつぶされそうな不安の時間に耐えられそうになくて、
30分をの待たずして、親父たちの傍へと理佳の車椅子を動かした。
親父たちと合流した後も、理佳は海を見つめ続けていて
理佳の両親は、そんな理佳と一緒に海に来た写真を撮影してひと時を過ごした。