君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】





そうだ……髪の結び方。


同じように長い髪を紫色の組紐でくくっているのに
左右が違うんだ。


右側にたらしている裕先生に比べて、
目の前にいる人は、左側に結わえてる。




「どうかしました?」





固まってる私に、声をかけるその人は
やっぱり……裕先生によく似てた。




出逢ったときは、まだ医学部の学生だったその人は、
ミニコンサートでピアノを演奏してた時、
私の隣で、ヴァイオリンの音色を響かせてくれた。


まだ学生さんだったその人を、
いつかは先生になる人だからって、裕先生って呼んでた。



裕先生は、「まだ先生じゃないよ」って苦笑いしてたけど
だけど……今は先生になってるはず。


国家試験には合格したって、
三月に教えてくれたから。





「裕先生?」




ゆっくりと言葉にすると、その人は
すぐに首を横に振った。




「裕は私の兄の名です。

 私は裕真。
 そこにいる託実の従兄弟。

 君の主治医の兄の子供」


そう言って、私の疑問に答えてくれた。



その後、裕真さんは
すぐに主治医の息子の傍に近づくと
分厚い本をベッドサイドの椅子に座りながら読み始めた。




お昼ご飯の後、私はかおりさんに車椅子で迎えに来て貰って
一階のエントランスへと移動する。

沢山の患者さんが出入りしてる
外来のエントランス。

そこに飾られている
外国製のグランドピアノが私の相棒。


エレベーターで降りた後、
ピアノの前に辿り着くと、車椅子からピアノの椅子へとゆっくりと腰をおろした。


会計待ちの患者さんと家族でごった返してる
その場所で、ゆっくりとお辞儀をして
真っ白な鍵盤にそっと両手を置いた。


「理佳ちゃん、
 15分後に迎えに来るわね」



そう、私に許された
一回のステージの時間は15分。


かおりさんが、ゆっくりと私の傍から
移動していったの確認すると今日最初の曲を演奏する。


ドビュッシー月の光。


詩人・ヴェルレーヌ「月の光」に影響されて
タイトルに名付けられたとされる、
美しい流れるようなメロディーラインの調べ。


心のままに鍵盤を走らせていくうちに、
私の心の中まで、清めてくれそうな
そんな音の噴水に、癒されていく。



4分少しの間の演奏を終える頃には、
ピアノの周辺には、
集まってくれた人が拍手をくれる。



ゆっくりと鍵盤から指を話して、
その人たちにお辞儀をする。



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