君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
6.隣の女 仲間の存在 - 託実 -
望まない入院。
消化しきれた振りをしても、
消化しきれない俺の心。
俺の向かい側のベッドで眠る
親父の患者らしい女は、
どん暗くて息が詰まる。
何か言いたそうな目。
だけどその視線は、
すぐに俺自身を見透かすような
蔑むような視線へと姿を変える。
かといって何かを直接オレに言ってくるわけでもなく、
両耳にイヤホンを付けて、
世界を遮断するように拒絶してる存在。
ったくただでさえ、初めての入院で
初めての退屈な時間で、ストレスもたまりすぎて
苛立ってるのに、母さんは母さんで、心配してるのは伝わっても
俺の神経を逆なでしすぎ。
少しは放っておいてくれって言うんだよ。
親父は親父で、顔を突き合わせば
治療がどうとか松川先生がどうとか
そんなもん、知るかよ。
苛立ちだけが募るものの、
そのはけ口がない時間。
だから……部活の奴らが、
顔を見せてくれた時、正直ほっとしたんだ。
少しこれで気がまぎれるって。
だけど……会話してる間に、
俺自身が酷く惨めになっていった。
怪我して、全国大会に出られなくなった俺。
俺の個人種別は、他の奴は出場できないけど
団体種別に関しては、俺の代わりに走れる存在が居る。
代用がきく存在だって、
大きく自覚させられた。
「けど治るんだろ。
託実」
「俺さ、今日……コーチから言われたんだ。
託実の分も走ってくるよ」
友達だって思ってた……仲間だと思ってたはずの奴らの声が、
今は俺の神経を逆なでする。
ダチと過ごす時間が、こんなにも苦痛を感じたのは
俺にとって初体験で、『もう出てってくれ』
喉元まで出掛ける言葉を必死で飲み込んでた。
確かに怪我は治るんだろう。
手術して、リハビリしたら、日常生活は出来る。
だけど……時間が俺には問題なんだよ。
どれだけ治っても、
今年の全国大会に間に合わなかったら意味がない。
そんなことにダチだったらどうして気が付かない?
俺の分も走ってくる?
お前がどう思っても、そいつが俺の分も走るなんて
出来るわけねぇだろ。
そいつにとっては、俺が怪我したのはチャンスだったわけで
虎視眈々と、スポットが当たる場所を探してたわけで……
俺の分も代わりに走るだなんて、綺麗ごとに過ぎねぇんだよ。