君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
レクイエム。
鎮魂歌。
ヴェルディとフォーレに並んで、三大レクイエムと言われる
このモーツァルトの曲が、誰にも知られず今も私を支え続けてくれる。
生きることすら、こんなにも罪の意識を感じるこの現実【せかい】で、
この曲だけが……私に優しく寄り添ってくれた。
私、満永理佳【みつなが りか】。
今年の四月、昔から18歳まで生きれることはないかもしれないと
余命宣告をされ続けていた、節目の年を迎えた。
本当なら、今頃大学生として?社会人一年生として
新しい一歩を歩き出している頃なのだろうけど、
今の私には、そんな目新しい刺激は何も訪れない。
ただこの狭い、病室を中心とした世界だけが
私が存在を許される場所。
学校と行っても、小学生になって間もなく見つかった
心疾患の影響で入院生活ばかり。
学校に通うことなんて殆ど出来ないまま、
勉強は院内学級で行われ続けた。
五歳離れた年に、私には大切な妹が居る。
妹の名は、百花【ももか】。
私が、モモの名前を呼ぶと
笑ってくれる可愛い妹。
お母さんから預かった哺乳瓶で、
ミルクを飲ませたこともある、大切な大切な妹。
だけど……心臓の病気がわかってから、
妹の存在は、私にとって遠い存在になった。
モモは、私が入院して以来一度も
この場所にお見舞いに訪れることはない。
私を取り巻く環境に近かったのは、
医療費の支払いに必死に向き合ってくれるお父さんと、
何時も不安そうに、
そして自分を責めるように私を見つめるお母さんの存在だけ。
私が入院生活を初めて、七年が過ぎた頃
私は最愛の妹が……
もう私の手の届かないところへ行ってしまったことを知った。
モモは、満永の姓を離れて……
母方の祖父、喜多川百花【きたがわ ももか】へと
名前が変わったことを知った。
私が生きてることで、両親が苦しみ
モモの居場所がなくなってしまったと言うなら
私なんて最初から、生きてこなかったら良かった。
皆が追い詰められて、
大好きな家族が、空中崩壊をしてしまうくらいなら
もっと早く、この命の終焉が訪れればよかった。
その日から私の心には、罪と罰。
二つの魔物が巣食い続ける。
トントン。
病室のドアが軽くノックされて、
ゆっくりと姿を見せるのは、
私の担当をしてくれる看護師さん。
遠山かおりさん。
かおりさんが、この病院に初めて就職した時以来の
お付き合いだから、
今の私にはお姉さんに思える存在かも知れない。
「理佳ちゃん、おはよう」
「おはようございます。
かおりさん」
いつもの様に体温計を手渡されて、
その隣で血圧を測られる。
「血圧、少し低いわね。
それに顔色もあまり良くないわ。
何かあったの?」
かおりさんは気遣う様に私に視線を合わせて
寄り添おうとしてくれる。