君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「はい、枕」
どんな声をかければいいかなんて、
わからなくて、ありきたりな言葉を紡ぐ。
ふて腐れてるだけだと思ってた託実君は、
私が枕をとって
彼のベッドに辿り着くまでに眠ってた。
ちょっとだけ……、
ほんの少しだけだから、
私の夢叶えていいかな?
心の中で自分に問いかけて、
ドキドキしてる胸に軽く手を添えた後、
私は託実君の頭元に、真っ白い枕を置いて
足元にある、掛布団をゆっくりと体へと引っかけてあげる。
モモに……やってみたかった
お姉ちゃんらしい夢。
こんな感じで疑似体験できるなんて思わなかった。
無事に夢が叶って、ベッドから離れようとした時
託実君の腕が私の腕を掴んで、力強く自分の方に引き寄せた。
踏ん張ることも出来ないまま、
私は託実君が眠るベッドへと倒れこみ、
彼はうめき声と共に目が開いた。
「おいっ、お前何してんの?」
「何してるって……、それ私が聞きたい。
腕……腕離してよ」
ちょっと声を荒げた私にびっくりしたように、
託実君は視線を自分の右腕に向けると、
びっくりしたように放した。
「悪い……もしかしなくても、
俺が寝ぼけてやったのか?
でも……ひょいっと掴んだだけで、
倒れるって、お前どれだけ非力なんだよ」
言いたい放題言いながら、
今もブツブツ、言い続ける託実君。
慌てて起き上がろうとする、
私だけど、反射的に動こうと焦れば焦るほど
心臓が言うことを聞いてくれない。
息苦しくなって、そのまま蹲るように
胸を抑えて、ラクな体制を必死に探り出す。
「おいっ。
どうしたんだよ?
親父、呼ぶか?」
そうやって、ベッドから動こうとする
託実君の腕を必死に、片手で掴み取りながら
もう片方の手では、相変わらず胸を抑えて。
……お願い……暴れないで。
誰にも迷惑かけたくないの。
何度も何度も心の中で念じている間に、
少しずつ、呼吸も息苦しさも
心臓の鼓動も落ち着いてくる。