君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「大丈夫、夢見が悪かっただけ。
ほら、私……18歳まで生きられたらいいほうかもしれないって
言われてたから、4月に18歳すぎちゃってナーバスになってるのかな?
命のリミット、もう越えてるってことだもん」
わざと明るい口調で、その話を何事もないように振る。
命のリミットを越えている。
それは私の実際問題だけど、
命の終焉を何処かで臨んでる私には、
対して、そのことは問題にならない。
私が抱き続けるのは、罪と罰。
私が抱き続ける罪は、
私の命。
存在そのもの。
私の存在が、家族を崩壊させた。
モモの大切なものを奪った。
そして私の罰は……
今も、家族を傷つけたこの世界で生き続けること。
そして……普通の人が望める、
普通の生活が出来ないこと。
そんな風に私の思考が閉ざされてしまったのは、
私を取り巻いた環境。
だけど……その命のリミットに対する発言が、
私に関わる存在に、どれだけの罪悪感を抱かす重みのある言葉かも
私は知ってる。
知ってて……確信犯で相手を傷つける、
そんな言刃【ことば】。
「理佳ちゃん……。
命のタイムリミットを考えるより、
もっと理佳ちゃんが理佳ちゃんらしく過ごせる時間を一緒に考えましょう?
理佳ちゃんも年頃でしょう?
お化粧とかに興味は持てない?」
慌てるように、ムードを変えようと必死に
話題をすり替えて提案してくれる、かおりさん。
「お化粧って言っても、
やっていく場所なんてないもの。
私はこの病院から出られないから。
多分、この病院から出られる日は
私の命が終わった時だよ」
そう言いながら、
窓の外の景色へと視線を向けた。
「理佳ちゃん、何言ってるの?
理佳ちゃんは生きてるでしょ?
だったらどうして、
もっとその命を大切にしようとしないの?
理佳ちゃんが大変なのは、私も知ってるつもりよ。
だって私の妹も、理佳ちゃんと同じ病気だったから……」
かおりさんは吐き出すように言って、
言葉をピタリと止めた。
同じ病気だったから……。
過去形で告げられたと言うことは、
かおりさんの妹は、完治してか、闘病を終えて亡くなったか二つに一つ。
だけど……多分、この場合は後者。
だからこそ……かおりさんは、
妹と重ねて、私に優しくしてくれてたのかもしれない。
今更に知った真実。
ただそんな背景を知らずに、優しくされていたら
その優しさに溺れていられる私の性分。
だけど……その背景を知ってしまった私には、
妹に対する罪悪感を私と関わることで
払しょくしようとしてるのかもしれないとか
そんな自己勝手に想いしか溢れてこない。
トントン。
再びノック音が聞こえて姿を見せたのは、
主治医の亀城宗成【きじょう むねなり】先生。
「遠野さん、後は俺がやっておくから君は下がりなさい」
そう言って宗成先生は、かおりさんを病室の外に追いやると
ベッドサイドの椅子に座って、私の方に視線を向けた。