君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】





自分のことに必死になりすぎてて、
わからなかったけど私が必死に自分の体を
落ち着かせようとしている間も、
託実君は託実君で、私を落ち着かせようと、
必死に頭を撫でて髪に触れて背中をさすってくれてた。





「……ごめんなさい……」

「落ち着いた?」





ゆっくりと少しずつ、
体をベッドから起こしていく。



起こしていく私をサポートするように
彼は、ゆっくりと支えてくれた。




「有難う。
 優しいんだね」

「優しいって、こんなの普通だろ。
 アンタはここで困ってた。

 ここには俺が居て、
 アンタが親父を呼ぶの嫌がったから。

 遠慮何てしねぇで、呼べばいいだろ?
 苦しいんだったら」

「大丈夫だから」




大丈夫だから……。


何度も何度も自分で繰り返す、
呪文。



「けっ、外は晴れかよ。

 雨降って、大会が延期にでもなりゃ、
 少しはスカっとしたのにな」



そう言いながら、
託実君は窓の方を見つめた。




「大会って?
 聞いてもいい?」

「大会は大会だよ。

 俺、中学の陸上で走ってんだ。
 今日は、それの大会」

「そっか……。
 残念だったね」



残念だったね。


その言葉が、託実君にとってどうやって作用するかなんて
私にはわからなかったけど、そんな言葉しか出て来なかった。



「残念……かぁ……。

 そうだよな。
 
 走ったこととか、大会出たことないヤツだったら
 そう言う風に思うよな」



そう言いながら、彼は私に背を向けて、
布団の中でゴソゴソしているみたいだった。


その姿は、体で私を拒絶しているみたいに思えて
私もゆっくりと自分のベッドへと戻った。





結局、その日も午後からの練習前に
もう一度、発作を起こしかけたことがばれて
私はベッドから動くことは出来なかった。



掛布団を引き上げて、
再び、眠りの中に誘われた私が次に目を覚ましたときは、
託実君のベッドの周囲はとても賑やかだった。


ベッドサイドの時計に視線を向けると、
16時が過ぎようとしていた。




病院内のコンビニでお菓子や、
飲み物を持ち込んできたその子たちは、
雑誌をテーブルに広げながら好き放題、
飲んだり食べたりしてる。



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