君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
なんで病人は、
あんなもんが食えるんだよ。
だけど……こうやって、見舞いに来てくれた奴が持ってきた差し入れは
美味しそうで、俺はついつい手を伸ばしては口元に運ぶ。
運びながら考えるのは、
消えたあの女が、お菓子やジュースを飲んでるところを見た事ないってこと。
見舞客が来ないってことは、
こうやって差し入れしてくれる奴もいないってことか?
だけど……稔が、お菓子とジュースを渡そうとした時
アイツは『そんなものいらない』って拒絶した。
なんか理由があるのか?
そんなよそ事に思考を張り巡らしていた時、
稔が不意打ちのように俺に問いかける。
「なぁ、託実。
お前さ、何時退院出来んの?」
何時退院できるって……
此処に居る奴らは、
入院生活の中でもう治療が進んでると思ってるはずで。
でも俺は……あの後、一度も治療を受けようとしないまま
親父たちを困らせてばかりいた。
「どうだろうな」
気まずい空気のまま、何事もないように話題をそらすように
空っぽのアイツのベッドへと視線を向けた。
アイツ……親父に、
絶対安静とか言われてなかったか?
何やってんだよ。
少しでも時間が出来ると、俺の思考は
あの女のことが気になるらしくて、
そんな俺自身に、あたふたする。
「託実君、ちょっといいかい?」
ふいに白衣姿で登場してきたのは、
主治医の松川先生。
主治医の登場に、病室で好き放題騒いでた
友人たちは、固まったように礼儀を正し始める。
「託実、長居して悪かったな。
今から診察か?
俺ら邪魔しないから」
「託実、じゃあまた来るわね」
一斉に部活の奴らは言い出すと、
病室から出て行く。