君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「託実君の場合、手術によって日常生活が支障ない程度に出来るようになるのは確実です。
軽い運動も、問題なく出来るでしょう。
だけど激しい運動が出来るようになるかは、
手術とリハビリの結果次第です。
もう一度、クラブ活動が出来るようになるまで一緒に頑張りましょう」
そう言いながら、主治医は話しを結んだ。
陸上部に戻れるかどうかは、治療の成果次第。
どれだけ必死に頑張っても、陸上部のメンバーとして
走ることが出来なくなるかも知れない。
選手生命が終わるかもしれない。
そんなに大げさなことになってるかなんて、
考えもしなかった。
何かかも軽んじていた俺自身の後悔も
後の祭り。
「有難うございました。
明日から、宜しくお願いします」
親父はそう言って、
治療方針の書類に署名を書きこむ。
「さぁ、託実行きましょう?」
母さんは車椅子の上で、
ちょっと思考回路が低下気味の俺を気遣う様に話しかけた。
「託実君。
明日から僕は全力で君のサポートをする。
だから君も、食事の管理も含めてサボらないように。
今日の晩御飯からサボるなよ」
そう言って、松川先生は俺たちを部屋から送りだした。
病室に戻る途中、親父はまたPHSで呼び出されて
病室まで母さんと二人だけで戻ることになる。
「ごめん。母さん」
病室に辿り着くと、車椅子からベッドに移動して
それだけむ小さな声で告げると、
母さんもまた「もう少し仕事してくるわね」っと声を残して
病室から出ていった。
病室に戻った時、
向かい側のベッドにはアイツが点滴を
ぶら下げられたままで静かに休んでた。
ベッドの頭元を少し上げて、
体を起こしたまま、
俺は眠り続けるアイツに視線を向ける。