君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】







アイツは親父の患者。




親父の患者ってことは、
アイツが悪いのは心臓のはずなんだ。




だけどそれ以上の
アイツの病気のことを俺は知らない。



この病院の中で、
アイツが見えてる景色ってどんなものなんだ?




アイツは何時から、何時まで入院してるんだ?






そんなことが脳裏を支配するように思考が
広がっていく。






その後、夕飯時間になって
アイツは担当ナースに起こされるように
晩御飯の準備が始まった。




俺の病室にも、
一綺兄さんと裕真兄さんが姿を見せる。



「二人ともどうして?」

「私は託実の為に母から
 預かってきたものを持ってきただけだよ」


そう言って、俺の前に紙袋に丁寧に包んで入れられた
何かを俺のテーブルの上に出す。




一綺兄さんの母親。




それは……母さんのお姉さん。

そして有名なデザイナー。




「託実、自分で開けてみて」



促されるように、その紙袋の中に入った包まれていたものを
開封すると、その中から、温もりに満ちた食器が姿を見せる。



「これ……」



思わず、姿を見せた姫龍【きりゅう】伯母さんの手作りらしい
それを手にした後、裕真兄さんが言葉を続けた。



「託実、今治療に同意してきたんだろ。
 実習中に、松川先生と少し会話して教えて貰った。

 一綺と相談したんだ。

 託実がご飯食べない理由を探そうって。
 それで辿り着いたのが、これ。

 病院の食器って、美味しくなさそうだもんな」



そう言うと二人の兄さんたちは、
看護師さんによって運び込まれた晩御飯を
器用に、叔母さんの作ってくれたお皿に盛り始めた。

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