君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


「はいっ、今日は託実の母親として、
 お近づきのしるしに、私からのプレゼントよ。

 目の前に居る姉が作った食器なんだけど、
 いつも食事、全部食べきれてないみたいだから
 少し気分を変えたらどうかしら?」



プレゼントなんて貰ったのは、
殆ど記憶がなくて……私は戸惑いの色が隠せない。

そのままリボンに手をかけたまま、
その手を止めてしまう。


「理佳さんと言ったか?
 私が作ったものだから大層なものじゃない。

 気負わずに使って貰える嬉しいのだが……」


そんな風に、薫子先生と良く似た人が少し古風な口調で告げる。



「理佳ちゃん、姫龍さまも仰ってる。
 気負わずに開けてごらん。

 その新しい食器を使ってあと少しだけ、ご飯を頑張ろう。

 その後、兄さんからの贈り物を病室にセットしてあげるよ。
 ただし、使うときは宗成伯父さんの指示に従うんだよ」


っと、確か……裕真さんって言う名前の人から話しかけられた。


「さっ、理佳ちゃん。
 開けてみて」



薫子先生にもう一度背中を押されて
ゆっくりとその包み紙を解くと、
中から姿を見せたのは桐箱。


その桐箱の蓋をゆっくりと開けると、
中から、可愛らしい食器が姿を見せる。


着物に描かれるような
上品な花の絵付けがされた、
綺麗なお皿や、お椀たち。


そのどのアイテムにも、
Kiryuの名と、Rikaっと言う私の名が刻まれてた。



「気にいったか?」



この食器を作ってくれたその人が、
私を見つめて問いかける。


その問いに私は黙って頷いた。

こんな風にプレゼントを貰った記憶が
もう随分昔だから。


我が家からプレゼントは消えた。

私の治療に医療費がかかりすぎるから。


その理由を知っているから、
私もそのままプレゼントをねだることはなくなった。



「ほらっ、姫龍伯母さんからいい食器貰ったんだろ。
 壊れたらまた作って貰ったら良いんだから
 とっとと使え。

 使って、その残りの晩御飯、食べろよな」



半強制的なほどに強気に言われて、
私は何も出来ずに、託実くんをじっと見つめる。


そんな私の手元、新しい食器に
私の晩御飯を盛り付けてくれてるのは、
薫子先生。

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