君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「ほらっ、出来た。
どう?
姉さんの食器のマジックは素敵でしょう?
いつもと同じ病院の食事でも、
こうやって装い方を変えたら、高級料理に見えない?」
そう言って問われた手元に視線を向けると、
確かにいつもと違ったメニューに見えた。
出されている食べ物は何時もと同じように、
減塩・水分制限を徹底的に管理された
病院食なのに、その器におかずとご飯を入れるだけで、
別のものに見えるから不思議。
「ほらっ、さっさと食べろよ。
食器が変わったら、
病院のご飯もそれなりに見えるだろ」
ほんの少しの変化で、
入院生活にも花が添えられる。
託実くんの家族が、
そんな楽しみ方を教えてくれた。
刺激されることって大切なんだ……。
何となく、そんなことを感じた。
珍しく全部、完食した晩御飯。
汚した食器も、薫子先生が綺麗に洗って
乾かして私の引き出しに片付けてくれた。
そんな隣、裕真さんはノートパソコンを出して
私のベッドテーブルに置く。
そのまま何かキーボードを指先で触ると、
「裕兄さんから手紙貰ってないかな?借りていい?」っと
問いかけられた。
そのまま封筒に入った手紙を手渡すと、
手紙に記載されていたアドレスを打ち込んで、
IDとパスワードを表示させる。
「セット完了」
そう言ってノーパソの画面を
見やすいように私の方へと向けてくれる。
そこにはアマティを奏でる裕先生の動画が
沢山並んでた。
「裕先生がいっぱい……」
「いっぱいって、不思議な話し方するね。
理佳さん」
そう言いながら、何かのカーソルを動かすと
パソコンのスピーカーから、ヴィバルディーの四季が聴こえてきた。
「パソコンのスピーカーでは物足りないね。
こっちはまた、準備しておく。
裕兄さんからの伝言。
兄さんの演奏は、ここにあげておくから理佳さんの演奏も同じように
あげてほしいって。
動画が完成したら、私かそこにいる一綺に声をかけてくれたらいいよ。
託実にでも、宗成先生にでも言えば連絡がつくはずだから」