君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
10.手術を越えて-託実-
八月。
松川先生に最終警告を受けた俺は、
親父たちの前で、治療に同意した。
ズルズルと俺自身の弱さで、
なんだかんだと理由を付けて、治療を拒んできたけれど
これ以上は、先延ばしに出来ない空気を感じだ。
親父や母さんを困らせるだけ……
そんな軽い気持ちだった、
俺の時間はその瞬間音を立てて崩れた。
全ては俺の不注意。
俺の軽はずみな行動。
その責任を取る時が来た……、
そんな風に自分に言い聞かせた。
*
「何見てるの?
それに……私、知ってるんだから。
入院したその日から、
君は一切治療してない。
拒絶して、迷惑かけて。
それでも……ちやほやされて。
甘えないで!!
託実くん、君は幸せじゃない?
やりたいことを少しでも経験して
楽しい時間を過ごしてる。
手術したら治るんでしょ?
だったら早く治して、
ここから早く出て行きなさいよ。
私に平穏な時間を返してよ。
私は……どれだけ治療を続けても、
手術を頑張っても、
自由に慣れない、一時的に症状を緩和させるだけ。
どれだけ頑張っても、自由に慣れないの。
だけど君は違うでしょ」
治療を決めて病室に戻ってきた後、
俺の顔を見るや、怒鳴り始めたアイツ。
ウザい、煩い、俺の事情も知らないで。
そんなイライラを募らせながら、
売り言葉と買い言葉。
反撃の言葉を思いめぐらせていた時、
目の前のアイツは、呼吸が荒くなって真っ青になって
その場に倒れた。
一瞬の出来事で俺自身、
アイツの身に何が起きたかなんてわからなかった。