君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】




ベッドから車椅子で移動して連れられた場所は、
リハビリ専用のトレーニング室。


その場所で、まずは歩行訓練から始める。

車椅子から立ち上がって、ゆっくりと短い距離を歩く。

ただそれだけの出来事なのに、感じる違和感。
動かしづらい関節。


普段ならなんてことない歩行と言う行動だけでも、
余計な力が入っているのか、汗が滲みだす。



その後は、マットの上に寝転んで、理学療法士の人に介助して貰いながらの
筋力トレーニングを一時間。

この時間が、俺的にはかなり拷問。


その後も、平行棒を使った負荷訓練。
自動屈伸マシーンを使った負荷訓練。




リハビリ初日、ようやくの訓練を終えて病室に戻った時には、
向かい側のベッドは空っぽだった。


「お疲れ様、託実くん。
 初日はどうだった?」

「リハビリ……下手な拷問よりきつくない?
 俺、陸上部の合宿の鬼メニューが可愛く思えた」

「あらあら、それでも前向きに頑張ってるんだもの。
 入院当初に比べて、良い顔してきたわね。
 一晩で変われるものね。
 後は、順調に術前リハビリも終わったらいいわね」

「手術の後も、こんなリハビリが続くって思ったら内心、恐怖もんだけど。
 それより、向かいのアイツは?」


担当看護師になった、左近に向かって話しかける。



「あぁ、向かい側のアイツって託実くん、理佳ちゃんって名前で呼んであげたら?

 気になるなら、車椅子で行ってみる?
 この時間、理佳ちゃんは一階のエントランスでピアノのミニコンサートをしてるのよ」



そう言って左近さんは仕事へと戻っていった。



ピアノコンサート?

アイツが?


聴かせられんのかよ?



そんなことを思いながら、俺はベッドに潜り込むと
何時の間にか睡魔に襲われていた。



次に目が覚めたのは病院の晩御飯前。

寝る前まで誰も居なかった向かい側のベッドには、
アイツが帰って来て、眠ってた。


思わず俺のベッドの上に座って耳を澄ましながら、
アイツが呼吸してるか確認してみる。



昨日、アイツの倒れ方を見てから
正直、アイツがいきなり、ぶっ倒れてポックリいってたなんて
洒落にならねぇ気がしたから。



「理佳ちゃん、晩御飯の時間よ」


そう言いながら俺の担当看護師の左近が、
アイツのベッドに、晩御飯のトレーを持って近づく。



思わず身を乗り出して確認する
アイツのメニュー。


白飯、きゅうりのなんか、肉じゃが、豆の煮もの。
そして、コップの中には水が、三分の一。




思わずそのコップの中身に驚きを隠せない。



アイツ、水分も制限されてるのか?
だから……あの日、ダチがアイツのすすめたジュースを
あんな言い方で断ったのか?

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