君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
『そんなものいらない』
アイツが閉ざすように言い放った、その言葉には
闘病の為に、親父に言われた決まりごとがあったからなのか?
だったら……ダチがやった、
その行為はアイツを傷つけたのか?
そんな考え事をしてる間に、
左近は、俺の食事は母さんが持ってくると言い残して
病室を出ていった。
そのタイミングを見計らって、
今しかないかと、俺は片足で床に立ち上がるとケンケンで飛びながら
アイツのベッドへと向かって、ヒョイっとアイツの晩御飯に指を伸ばした。
つまんだのは、肉じゃがの中に入ってる、ジャガイモ一切れ。
そんな俺の行動はアイツは、びっくりしたのかボーっと見つめる。
「ってか、これ味が薄すぎねぇ?
でもいいやっ。
育ちざかりは、腹減るんだよ。
怪我さえしてなきゃ、今頃、隆雪たちとバーガーショップで
胃袋満たされてんだけどな」
一口だけでは会話が続かなくて、
この場所に居座るために、俺は次から次へとアイツの晩御飯をつまみ始めた。
「託実、遅くなって……って、何してるの。
もう、理佳ちゃんのご飯奪っちゃ駄目でしょ」
ふいに背後から母さんの声が聞こえて、
俺の頭上に、拳骨が降り注ぐ。
「いてぇー。
ったく、母さんが持ってくるの遅いからだろ」
「悪かったわね。
託実、早く自分のベッドに戻りなさい。
理佳ちゃん、ごめんなさいね。
あのバカが食べちゃってたなら、
もう一つ作って貰おうか?」
「あっ、別にいいです。
私、いつも全部食べられないから」
そんな風に言いながら、
ほんの少しだけ義務的に、お箸を動かして
アイツは食事をやめた。
って、お前……殆ど、食ってねぇじゃん。
母さんに連れ戻されるように、
自分のベッドに戻りながら、
俺は、姫龍伯母さんの作ってくれた食器に装われた
今日の晩御飯に箸をつける。
味付けが……全然違う。
アイツの奴より、
俺の方がまだしっかりついてる気がする。
そんなことを思いながら、
アイツから視線が離せない。
最後にアイツは、コップを手に取って何回か口元に運んだ。
慌てて口の中のものを飲み込んで
「お前、もう食べないの?」って話しかけてみる。
その時、ノック音と同時に
姫龍伯母さん、裕真兄さん、一綺兄さんが姿を見せる。
その後ろから、一綺兄さんの父さんである、紫(ゆかり)伯父さんが
続かないことに、少し胸を撫で下ろす。
俺が通ってる学校に最初の伝説を築いた、その紫伯父さんの姿を見るのは
今は正直キツイ。