君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「理佳ちゃん、姫龍さまも仰ってる。
気負わずに開けてごらん。
その新しい食器を使ってあと少しだけ、ご飯を頑張ろう。
その後、兄さんからの贈り物を病室にセットしてあげるよ。
ただし、使うときは宗成伯父さんの指示に従うんだよ」
その時、裕真兄さんが最後の一押し宜しく
アイツのベッドに向かって声をかける。
げっ、ある意味……アイツのベッド、拷問じゃん。
殆ど面識が乏しい奴に囲まれるアイツ。
「さっ、理佳ちゃん。
開けてみて」
とどめの様に母さんにもう一度促されて、
アイツはリボンを解いて包み紙を取ると
見慣れた桐箱が姿を見せる。
そしてゆっくりと震える手で開け放った中からは、
俺の食器とはまた違った、可愛らしいけど繊細そうなアイツらしい
絵付けがされた食器が出てきた。
多分……伯母さんのことだ。
そこには、アイツの名前が刻まれてるだろう。
俺の食器に、Takumiと名前が入っているように。
「気にいったか?」
伯母さんが今度は、食器に魅入ってるアイツに声をかけた。
アイツは今も、食器を手にしたまま
固まってる。
これ以上、俺の出番を横取りされるのも癪に障るから
思い切って声をかける。
「ほらっ、姫龍伯母さんからいい食器貰ったんだろ。
壊れたらまた作って貰ったら良いんだから
とっとと使え。
使って、その残りの晩御飯、食べろよな」
その言葉の後、
アイツは何も言わずに俺の方をじーっと見つめる。
俺は意識をそらすように、俺の食器から残りの晩御飯を食べ始めると、
母さんがアイツの新しい食器に、病院食の残りを盛り付け始めた。
「ほらっ、出来た。
どう?
姉さんの食器のマジックは素敵でしょう?
いつもと同じ病院の食事でも、
こうやって装い方を変えたら、高級料理に見えない?」
母さんがそう言ったタイミングで、
俺も言葉を続ける。
「ほらっ、さっさと食べろよ。
食器が変わったら、
病院のご飯もそれなりに見えるだろ」
その後、アイツは少しずつもう一度
箸を持って、食事に手を付け始めた。
アイツの隣、最後まで残っているのは
裕真兄さん。
アイツの完食を見届けて、
母さんが食器を下げた後、
兄さんはおもむろに鞄をベッドのテーブルへと置いた。
鞄の中から、チラリと見えたのは
ノートパソコン。