君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
自力歩行が許可された頃から、
少しずつ俺は、アイツの後を追いかける。
午後のミニ・リサイタル。
コンビニの買い物を装って、わざわざ買いたくもないお菓子を手に
買い物のついでを装って、アイツの演奏するピアノの前で立ち止まる。
「あれっ、託実。
そろそろ、顔出してもいいかなって思って、グランにきいて来てみたんだけど」
そう言って俺に話しかけてきたのは隆雪。
「まぁな、管もとれたし手術から一週間。
今日から松葉杖なしで院内は歩けだってさ」
「それはそれは、スパルタだね。
それより託実にしては珍しくない?」
「珍しいとか、何でもねぇよ。
ほらっ、ついでだ。ついで」
わざとらしく、さっき買ってきたコンビニの袋を隆雪にも見せつける。
「そっか。ついでか……。
俺はさ、時折ここのミニリサイタル来てるんだ。
託実の病室の理佳さんってさ、
なんて言うか……いい演奏するんだよ。
俺が最初に出逢ったのは、TVの番組だったんだけどな。
難病の子供たちの心を救おうって言うプロジェクトがあってさ、
メイク・ア・ウィシュって言う番組が昔あったんだ。
そこに理佳ちゃん出てた。
理佳ちゃんさ、心臓の病気で、助かるには心臓移植しかなくて
その当時は、外国に行って手術を待つにも沢山のお金がかかるし、
日本での移植なんて望めなかったから、病院の先生に18歳まで生きられないって
宣言されたって。
全てに絶望してた彼女の心を救ったのは、憧れのピアニスト。
羽村冴香だったかな、その人のピアノの音色だったんだってさ。
それでもう一度、私に生きる希望をくれた羽村冴香に会いたいって、叶うならお稽古つけてほしいって
協会に手紙を書いてきたのがきっかけなんだ。
その番組の中でも、彼女、羽村さんと演奏してた。
その演奏が凄く印象的で、また聴いてみたいなって思ってたんだ。
そしたら……熱出して、此処に来た時に
彼女の演奏と再会した。
あれから……時折、此処にこのピアノを聴きに来てたんだ」
隆雪が知ってたアイツの情報に驚愕する。
それと同時に、アイツが出ていたらしい
そのTV番組を見てみたいと思った。